バレーボールPRESSBACK NUMBER
バレーW杯で苦戦した中田ジャパン。
浮き彫りになった「間」の重要性。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byItaru Chiba
posted2019/10/03 11:50
ラスト3戦で盛り返し、W杯を5位で終えたバレー女子代表。浮き彫りとなった課題を東京五輪へつなげたい。
お互いに様子をうかがいながら……。
「昨日からトスを浮かせてもらうようにしたんですが、まだタイミングが合っていない。今までのトスの速さに合わせて助走してしまい、一歩早く入りすぎて、待って打つことになり、助走の勢いを使ってジャンプすることができていない。セッターとお互いが様子をうかがっている状態。午前中の練習では、全体練習の後にセッターと合わせているんですが、まだ、『あ、これだな』というところで終われていなくて……」
セッターの佐藤も、「私がスパイカーを悩ませてしまっている」と責任を背負いこんでいた。
その後も石井は空間のあるトスを求め、助走の開き方を変えるなど、改良を続けた。同じように試行錯誤していた古賀とともに、ようやくコンビが「しっくりきた」と話したのは、第8戦のブラジル戦後。この日は攻撃がレフトに偏り、ブラジルのブロックと守備に阻まれて決定率は上がらなかったが、自分の打点から体重の乗ったスパイクを打てているという手応えはつかんだ。
ただこの時点でもう日本のメダル獲得の可能性はついえていた。
速さを追求し、選択肢を失った。
眞鍋政義前監督の頃から、もっと言えば男子の代表も含めて、日本が“速い攻撃”を目指しては、大会中に行き詰まり、トスを浮かせてスパイカーの打ちやすいトスに調整する、という光景を何度も目にしてきた。
中田監督が目指すワンフレームバレーは、ボールが自チームのコートに入ってからの展開を速くすることで、相手の体勢が整う前に攻撃を繰り出して相手を翻弄することを目的とする。V・プレミアリーグ(現在のV.LEAGUE DIVISION1)の久光製薬で監督を務めた時も、このワンフレームバレーを掲げ、就任1年目でリーグ優勝を果たし、在任4シーズン中3度優勝という結果を残した。
ただ相手が世界になると、同じようにはいかなかった。相手のサーブやスパイクの威力、ブロックの圧力が違うため、相手を撹乱する以前に、日本のコート内に余裕がなくなり、セッターはレフトにしか上げられない、スパイカーはここにしか打てない、といった選手にとって選択肢のない状態に陥ってしまった。
久光製薬の中心選手でもある石井は、ワンフレームバレーについて、大会中こう語っていた。
「日本では通用していたけど、(1本目が速い分)攻撃枚数が減ったりするので、(世界に対しては)まったく同じというのは通用しないと思います。でも監督は、ワンフレームバレーはぶれずにやっていきたいということなので、久美さんのバレーなので、そこはしっかりやっていかないと。その中でも自分たちでいいように変えられるところは変えて、うまくはめていかなきゃいけないかなと思います」
必要なのはトスの速さではなく攻撃枚数を増やすこと。選手たちはそれをわかっていて、試合後は毎日のように「攻撃枚数」という言葉が出ていた。