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甲本ヒロト×安美錦
土俵の上に「情熱の薔薇」を。 

text by

佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2019/09/17 18:00

甲本ヒロト×安美錦土俵の上に「情熱の薔薇」を。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

初めての相撲部屋訪問に、甲本ヒロトさんも大喜び。感激するも興味津々の甲本さんに、目を細める安美錦関だった。

安美錦「まだまだ辞められませんね」

――安美錦関は現在38歳、関取最年長です。「曲者」と呼ばれるほど多種多様な“技”という個性を持っていて、土俵上ではいぶし銀の輝きを放っています。

安美錦「そう言ってもらえるのはうれしいことです。『曲者』とは『何かしてくれるんじゃないか』と期待されてこその言葉だと思いますからね。『やってやろうかな』という気持ちになります」

甲本「ファン心理としては、『期待』と『予想』という2つがあって、期待には応えて欲しいんですけど予想は裏切って欲しい。そこが面白いところで、安美錦関はそれをちゃんとやってくれるんです」

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安美錦「そんなこと言われたら、まだまだ辞められませんね。実は僕は21歳で幕内に上がったときは最年少、最軽量だったんですよ」

甲本「太るのは大変でしたか?」

安美錦「大変でしたね。20年前に部屋に入ったときは親方(現伊勢ヶ濱親方・元横綱旭富士)の付け人をしていて、晩御飯のときもノルマじゃないですけど、みんなのテーブルとは別にテーブルが置かれていて、そこに並んでいるおかずを全部食べなければならなかった。ご飯も5杯。でも朝起きたら体重が減っているんですよ(笑)。それだけ若いときは稽古をしていたということなんですが、なかなか太らず苦労しました」

安美錦「土俵の上では、自分を表現したい」

――甲本さんもスランプや曲作りができないという時期もあったのでしょうか。

甲本「始終スランプですよ。1曲作り終えたら、死ぬまで僕は曲なんか作れないだろうなあって確信するくらい、もう無理だなあって。それは20代のころから変わりません。

 気付けばもう200曲ほど作っていますが、1曲作ると、『もう出てこないだろう』って毎回思うんです。その状態が苦しいかといえば……出てこなくてもいいやと思っているんです。『もう出てこないな』『出てこなかったらバイトするしかないかな』とか、毎回そんな感じで。

 だから、『これまでの29年のことはもう忘れてちょうだい。今日の僕だけ見てください。僕も今日のあなたを見ますから』って。それがたまたま30年続いているだけで、長く続けたからどうっていう気持ちはない。常に、『今日やっているぞ』という気持ちだけ。だからなかなか辞められないんですけどね」

安美錦「辞められなくなりますね。僕もそれに近いです。

 昨年5月場所でアキレス腱を断裂したんですが、9月場所で復帰して相撲を取ったときに、『こういう相撲はみんな望んでいないんじゃないか』と考えることがあったんです。自分でも相撲になっていないなとわかっていましたし、そういう状態で相撲を取るのは、安美錦は横綱や大関を倒すイメージだと思っている方たちに対して申し訳ないなという気持ちがあった。『こういう相撲しか取れないのか』と葛藤しましたね」

【次ページ】 甲本「前人未到の領域に足を」

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