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鳥谷敬の引退勧告は「冷たい」か?
ベテランの進退に求められること。
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKyodo News
posted2019/09/12 11:45
今季は主に代打で起用されてきた鳥谷敬。今シーズン限りでの退団を表明した後も一軍登録は外れておらず、チャンスで登場する場面もあったが……。
ネックになった年俸4億円。
そして、今季の年俸は4億円となっている。
成績が低迷しており、出来高契約による報酬がそう多いとは思えないが、それでも関係者筋に尋ねると「4億円ではきかないはず」という声もあった。筆者の取材の経験からいっても、選手名鑑などに記載される額が実際より多い例は聞いたことがない。そうなれば少なくとも4億円という表現が的確に思える。
もちろん、この額は球団と鳥谷が交渉して合意したのであり、胸を張って受け取っていい報酬だ。しかし、同時に来シーズンの契約を検討するとき、この金額と成績は非常にアンバランスなのは間違いない。
実際にどんなニュアンスで伝えたかはともかく、タイガースに「引退してくれないか」と言わせた理由は、38歳の年齢とこの金額に尽きる。若手野手も少しずつ成長しており、来シーズンに成績がV字回復することは期待できない。組織はそう判断したということだ。
逆オファーはできなかったのか。
引退セレモニーを行う。本人が望むならポストも用意する。約束するわけにはいかないが、将来的には監督の有力候補でもあるだろう。そういったことをいかにうまく伝えたとしても「まだやりたい」と思っている鳥谷には「引退してくれないか」以外に聞こえないということである。
裏を返せば、鳥谷の方も球団が最も懸念している材料を解消する提案をすればよかった。
「球団の考えはよくわかりました。でも、私はまだ現役にこだわりたいのです。年俸は10分の1、いや20分の1でもかまいません。プレーするチャンスを与えてはもらえませんか?」
今後、自由契約となった鳥谷の獲得に名乗りを上げる球団はあるかもしれないが、確実にこの仮定の金額以下の条件が提示されるだろう。新しい環境を求めたいのなら別だが、現役であることが最優先だとしたら、引退勧告に対抗しうる最も有効なのがこの逆オファーだったと思う。