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上田綺世の鹿島加入が示すこと。
部活が強い日本サッカー界の変化。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byKyodo News
posted2019/07/29 18:00
鹿島は、次々と若い才能が世界へ巣立っていくクラブになった。上田綺世もその系譜に名を連ねようとしている。
海外クラブとの獲得競争にも“効力”が?
日本サッカー協会には高校や大学のサッカー部に在籍しながら、プロの試合にも出場できるJFA・Jリーグ特別指定選手制度がある。もともとはJリーグが選手の成長を促す「刺激」となることが求められて始まった制度だったが、選手獲得の囲い込みに繋がるという懸念から、加入内定者に限るとルールが変更された。上田の獲得競争が2年時に加熱した理由はここにあった。
鹿島の場合、2010年に高校2年生だった柴崎岳の加入を内定させたのを機に、卒業を待たずに仮契約を結び内定を出すケースが増えている。以前、「選手サイドから早く決めたいという要望があった」と椎本邦一スカウト担当部長が語っていたが、この流れは今後加速する可能性は高い。内定を出すのは、特別指定選手として活動させるためだけでなく、海外クラブとの獲得競争における“効力”にも繋がると見られるからだ。
この夏、バルセロナが獲得を模索している日本人選手がいる。桐光学園の西川潤だ。飛び級でU-20ワールドカップメンバー入りを果たした西川は、セレッソ大阪への加入が内定し、特別指定選手として活動している。18歳になった時点でバルセロナが獲得に動き出すと報じられた。
アマチュアからの移籍であれば、育成費は出ても移籍金は生じない。欧州であれば、高校生であってもプロ契約を結べるが、部活動でプレーする日本の選手には、Jクラブが内定を出すことしかできない。それが欧州のマーケットと対抗するための手段になる。「内定の仮契約であっても、法的拘束力を持つ契約であると思っている」と鈴木満強化部長は話す。
日本がレベルアップしたからこそ。
鹿島は植田直通、昌子源、安西幸輝、安部裕葵、鈴木優磨と1年間で5人もの選手を移籍で失った。多くが20代前半。戦力として目途が立った、これからの選手ばかりだ。
鈴木強化部長は言う。
「ジーコとも話をしたけれど、日本の選手に海外から声がかかるようになったのは、日本がレベルアップしたから。ブラジルは欧州へ数多くの選手を送り出しても、新しい選手を育て続けている。鹿島も、選手を移籍させても、タイトルを獲りながら次の選手を育てていくしかない。それが世界の流れだから」
その胸中は、法政大学の長山監督と同じだろう。プロとはいえ、海外という環境に挑戦し、成長したいと願う選手をとどめることはできない。