ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
村田諒太は「我らがヒーロー」だ。
変化の末に待っていた衝撃の2回KO。
posted2019/07/16 11:30
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
最後を看取る─―。
勝ってほしいとは願いつつ、正直に告白すると、そんな思いが9割を占めていた。9カ月前にフルラウンド戦って完敗した相手に雪辱などできるものだろうか。もしできたとするならば、それは劇画の世界でしかありえないのではないか。そう思っていた。
この2カ月ほど、村田諒太(帝拳)の練習を週に1回のペースで取材した。確かに好調だった。いままでとは違う姿の村田がいた。ボクシング・スタイルに変化を加えようという確固たる意思を感じさせた。ストレスをためていたり、迷いがあったりする様子もなく、どこか吹っ切れた印象を与え続けていた。一方で、どこか吹っ切れすぎているようにも見え、「これが最後」と心に決めているようにも感じられた。
来日した王者、ロブ・ブラント(米)の調子はすこぶるよく見えた。米国ミネソタ州セントポール出身の28歳は2018年10月、“アンダードッグ”として日本のスター、村田に挑み、予想を覆して勝利をおさめ、2月に行われた初防衛戦に快勝。すっかり自信をつけたチャンピオンは、日本メディアの取材に笑顔を絶やさず、落ち着いていて、憎たらしいくらいに余裕を感じさせた。
やはり“奇跡”を起こすのは難しいのではないか。試合開始のゴングが鳴るまで、暗雲の垂れこめた梅雨空のように心は晴れなかった―─。
奇跡ではなく、必然の結果。
7月12日夜、大阪はなんば、エディオンアリーナ大阪で“奇跡”は起きる。いや、それは“奇跡”ではなかった。周到に準備され、ボクシング人生をかけた覚悟がもたらした必然の結果だった。
村田は宣言通りスタートからアグレッシブに攻めた。ガードを高く掲げ、前に出るスタイルはいつもと同じだ。せわしく動き、盛んにパンチを出すブラントのスタイルもまた同じように見えた。
しかし、村田のプレッシャーが前戦以上に強い。ワンツー、右ボディストレート、左ボディフック。手数がスムーズに出るところが前回とは明らかに違う。多少の被弾は気にせず攻める姿勢が何より目を引いた。