“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
選手権得点王・染野唯月が鹿島へ。
常勝軍団を作るスカウトの柔軟な目。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/07/04 17:30
鹿島アントラーズ入団が発表された尚志高校3年・染野唯月。安部裕葵ら主軸の海外移籍も取り沙汰される中、背負う期待は大きい。
「自分のゴールが持つ意味」に気づいた。
「今思うと、尚志でFWにコンバートされたことが本当に大きかった。ここに来たからこそ、選手権でストライカーとしての自覚を持つことができて、そして鹿島に戻れた。正直、僕はボランチとしてユースに上がりたかったし、高校でもボランチとして成長したいと思っていました。なので、ボランチというポジションにはずっと未練があった。高2の春ぐらいまでは『もう俺にはFWしかない』と割り切るために自分に言い聞かせていたほど。ゴールを奪うことにそこまで大きな責任を感じていませんでした。
でも、プレミア参入戦のマリノス戦で『自分のゴールが持つ意味』に気づくことができたんです。あの試合から『ゴールを決めたいな』から『決めなきゃいけない』に変わりました。FWとしてシュートを決める責任感を理解することができたし、FWとしての自覚が生まれました。もうボランチへの未練は一切なくなって、『点を決めるためにはどうしたらいいか』と深く考えるようになりました。ゴール前に入る回数、入り方のバリエーションにこだわるようになった状態で選手権に入ることができたんです。
選手権を通じて、厳しい試合こそ、自分のゴールでチームを勝たせたいという思いが沸々と湧いてくるのが分かりました。それに自分の最大の武器はパスやキープ力ではなく、シュートにあると気づくことができたのも自分の中で大きなことでした」
磨きがかかった天性のシュートセンス、ゴールスキルを大一番で発揮し続ける勝負強さ。それが椎本氏らの決断を引き寄せたのだった。
早まる海外進出に見合ったスカウト策。
椎本氏は獲得の経緯をこう話す。
「我々が今、求めているのは点を取れるFW。現状でも素晴らしいFWがいますが、やはりチームの強化は常に2年後、3年後を考えて、将来獲得した選手が年齢的にここ(2~3年後)で主軸になってほしい。だから今から準備をしておかないといけない。鈴木優磨も23歳で、伊藤翔は30歳。それにセルジーニョも土居聖真、白崎凌兵も1.5列目以降の選手。彼らより若いストライカーが必要だった。
昔は18歳で入団すると、20歳くらいから試合に出始めるようになり、28歳くらいまではいてくれた。だが、今はもう21~23歳でチームの主軸になった瞬間に海外クラブへ渡っていく傾向がある。喜ばしいことでもあるからこそ、スカウト側もそこを加味して獲得プランを出さないといけない。(主軸を)抜かれたことでチームが弱体化してしまってはいけない。
そうした強化軸を考えると、大卒はもう即戦力クラスでないといけないし、だからこそ高卒選手はじっくりと育てられる選手が必要でした」