F1ピットストップBACK NUMBER
F1ホンダが味わった撤退、酷評……。
13年ぶりの勝利の美酒に嬉し涙。
posted2019/07/02 17:30
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
AFLO
「長かった」
第9戦オーストリアGPで優勝したホンダF1のテクニカルディレクターを務める田辺豊治は、2006年のハンガリーGP以来、13年ぶりにホンダがF1の舞台で頂点に立った心境をそう語ると、しばらく空を見つめた。
それは、この13年という歳月の中に、ホンダのF1活動を行ってきた者たちにとって、忘れられない日々がいくつもあったからだ。
'06年ハンガリーGPで最後に優勝してから2年後の'08年12月、ホンダはF1からの撤退を決める。その直前まで'09年へ向けたテストを行ない、手応えをつかんでいた現場スタッフたちにとっては苦渋の帰国だった。ホンダが撤退した後、チームはブラウンGPという名で再出発。ジェンソン・バトンが'09年の開幕戦で優勝した。その活躍が映し出されたテレビ画面を、田辺をはじめ多くのホンダのスタッフが泣きながら見ていたという。
7年ぶりにF1へ復帰するも……。
その後ホンダは'13年5月に、'15年からマクラーレンと組んでF1復帰することを発表した。モータースポーツ部門から外れ、さまざまな部署に散らばっていたかつてのF1戦士たちも、再び戦場へ帰ってきた。だが、そこでホンダのスタッフを待っていたのは、これまで経験したことがない艱難辛苦に満ちた戦いだった。
'15年の開幕へ向けて初めてマクラーレンのマシンにパワーユニットを搭載して行われたアブダビでの合同テストで、ホンダはトラブルを連発させ、ライバルたちと渡り合うどころか、まともに走ることさえできなかった。参加したホンダのスタッフの中にはテスト前日の準備日も含めて3日間、ホテルに帰ることもできず、サーキットで不眠不休で作業を続けた者もいた。