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ブエミが語るアロンソの速さ(前編)。
「彼の勝利への執念は次元が違う」
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byTOYOTA
posted2019/07/01 11:30
1年半の長いシーズンを共に戦ったブエミ(左)とアロンソ。
分厚いマニュアルを読み続けた元F1王者。
――たとえばメンタル面以外で、強烈に印象に残った要素は?
「あんなにディテールにこだわるドライバーだとは思っていなかったね。
TOYOTA GAZOO Racingにやってきたばかりの頃、彼はレースのオンボード映像(車載カメラの映像)を何時間もひたすら見て、WECの走り方を学ぼうとした。あれは全く予想外だった。
そもそも彼はF1で2度も世界チャンピオンになったような人間だろう? 他のレースの経験だって豊富なわけだから、普通なら『自分はすべてわかっている、もう学ぶことなんて何もない』という態度を取ったりしてもおかしくない。なのに、本当に一生懸命に映像を見ているんだ」
――まるで新人ドライバーのように謙虚だった。
「それと彼が、マニュアルを何度も何度も繰り返し読んでいたのが印象的だったね」
――マニュアルというのは、サスペンションのセッティングやエンジンの燃費、ハイブリッドシステムのモードなどを切り替えていくための解説書のことですよね? WECのトップカテゴリーに参戦している車はモンスターマシンばかりですが、特にTS050 HYBRID はハイテクの塊で、マニュアルも桁外れに分厚いと言われています。そのマニュアルをひたすら読み込んでいたと?
「そう。フェルナンドはまずWECに求められるドライビングスタイルを学んだうえで、テクニカルなこともすべて頭に叩き込み、マシンを少しでも速く走らせるための小さなコツやノウハウを吸収しようとしていた。最終的には、ああいう努力の積み重ねをできるかどうかが違いを生んでいくんだと思う」
アロンソがスペシャルになれた理由。
――おそらくF1時代も、同じような努力をしてきたんでしょうね。
「だと思う。このレベルで走っているドライバーは、もともと優秀な連中ばかりだ。でも彼は本来の才能に加えて、そういう努力をしてきたんだと思う。だからこそ他の人間よりも、スペシャルな存在になれたんだろうね」
――実際のドライビングなどに関して、彼から学んだことはありました?
「フェルナンドがチームに加わった時点では、当然、僕の方がWECマシンに詳しかった。さっき言ったマニュアル絡みでも、マシンの操作方法はすべてわかっているから、彼にアドバイスをすることもできたんだ」