錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
“キツイ時にナダル”で錦織完敗。
最高の気分で挑戦できる日は来るか。
posted2019/06/05 18:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Getty Images
ラケット1本を右手に持って入場する。コートの中を歩くときは右足でラインを越える。ウォーターボトルの正面を全てきれいに揃えてコートのほうに向ける――。
これらはすべてラファエル・ナダルの試合でのルーティンだ。コイントスのときに相手選手よりあとにスタンバイするとか、サーブの前に顔を触るパターンとか、ウェアのショーツのお尻の部分をつまんで下に少し引っ張るとか、まだまだ細かいことを挙げればキリがない。
ルーティンには、いつも決まった行為を行なうことによって心のリズムを整える、雑念を排除して集中できるといった効果があると言われる。
ルーティンも験担ぎもしない。
錦織圭にはそういった独特で際立ったルーティンが見当たらない。勝っている間は髪を切らないとか、髭を剃らないとか、同じものを食べるといったゲンかつぎもまったくしないと、10代の頃から言っていた。今もそれは変わらないという。
「いまだにないですね。最近、験担ぎの深い意味というのがやっとわかってきて、大事なことだなとは思い始めました。トップの選手はほぼほぼみんなあるので、それぞれの性格に合った験担ぎとかルーティンがあって、見てておもしろいなと思う。でも自分はそれがなくてもいい性格なので、やらないです」
少し話は違うが、オンコートのファッションにしても、錦織の好みの傾向はまったく読めないとユニクロの担当者が苦笑する。これはないだろうなというデザインを気に入ってチョイスしたり、以前好きだと言ったカラーを入れてみたら目もくれなかったり……。
多分、錦織は同じ行動パターンで心を支えるのではなく、そのときそのときの気分に従って動き、その展開を楽しむ人なのだ。
4回戦でブノワ・ペールに勝った後に「チョレイ」などとテレビカメラに書いたのも、いきなり降ってきたアイデアだったらしい。「そんな気分」だったのだと錦織は言った。