酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
球史に残る「2018年の菅野智之」。
球界のエースの万全な復帰を祈る。
posted2019/05/24 11:30
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kyodo News
4月28日に私は、今季の巨人・菅野智之のマウンドに懸念を示した。
幸いなことに、直後の5月1日の中日戦は9回自責点1で完投し、4勝目を記録した。立ち直るかと思われたが、その後2試合は6回自責点4、5回2/3自責点7と大きく打ち込まれ、5月21日には腰の違和感のために登録抹消になった。
菅野は2018年に、キャリアで初めて200イニングを超え、球数もレギュラーシーズンだけで3000球を超えた。登板過多による疲労が今季の不振の原因ではないかと思われる。
さらに踏み込んで調べると、昨年の菅野の力投は、平成以降の投手起用の常識を超えていることが分かった。
このコラムで以前、PAP(Pitcher Abuse Point=投手酷使指数)を紹介した。
PAPは、1試合で投げた球数から100を引いてそれを3乗したもの。これを毎試合加算する。
この数値の合計がシーズンで10万を超えれば故障の可能性が高く、20万を超えればいつ故障してもおかしくないとされる。100球以下の試合はカウントしない。
<菅野の年度別の投球数とPAPの推移 ポストシーズンの成績を含む>
2013年 3031球/PAP 16万6491
(先発29 完投2 完封1 100球以上17回 最大136球)
2014年 2454球/PAP 21万7788
(先発23 完投3 完封0 100球以上16回 最大142球)
2015年 2943球/PAP 13万8168
(先発27 完投6 完封2 100球以上20回 最大135球)
2016年 2863球/PAP 19万7975
(先発26 完投5 完封2 100球以上20回 最大139球)
2017年 2795球/PAP 15万2552
(25先発6完投4完封100球以上21回 最大135球)
2018年 3242球/PAP 24万3978
(先発28 完投11 完封9 100球以上24回 最大133球)
2019年 913球/PAP 9万8687
(先発8 完投2 完封0 100球以上7回 最大137球)
「平成の野球」とは言えないものだった。
2018年の菅野は、ポストシーズンでのノーヒットノーランも含めて11完投9完封。PAPは危険水域を大きく超える24万に上った。
昨年の巨人は救援陣が崩壊状態にあり、セーブ数(25)、ホールド数(73)ともに12球団最低に終わった。
そんな中で、巨人は最終盤にDeNAとのデッドヒートに勝って、退任が決まった高橋由伸監督への餞となるCS進出を果たしたのだが、とりわけエース菅野は3試合連続完封。さらにシーズン最終戦にはクローザーとして1イニングを投げた、その上にCS初戦ではノーヒットノーランを演じたのだ。
9月22日から10月9日までの18日間で5試合に登板し、37イニング480球を投げて無失点。
救援投手が信用できなかったので、菅野は先発すれば最後まで投げ切った上に、臨時でクローザーまで務めたのだ。
その快投は球史に残るといっても良いが、率直に言って「平成の野球」とは言えないものだった。レギュラーシーズン8完封は、1978年近鉄の鈴木啓示以来40年ぶりだ。