酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
球史に残る「2018年の菅野智之」。
球界のエースの万全な復帰を祈る。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2019/05/24 11:30
NPB最高の投手である菅野智之が、再び万全な状態でマウンドに戻ってくることを誰もが願っている。
MLB投手のPAPはひとケタ違う。
シーズン後半の菅野は「完封」に並々ならぬこだわりを見せていたのではないかと思う。
完封は完投とは異なり失点できない。点差が開いても、下位打線でも気を抜くことができない。
球数や投球回数もさることながら、ポストシーズンも含め9完封という、今どきでは考えられない力投が、今季の成績に大きな影響を及ぼした可能性は極めて高い。
MLBではこうした「エースの力投」はあり得ない。
MLBでは毎年、2018年の菅野の球数、投球回数を上回る投手はたくさん出てくるが、その中身は全く違うのだ。
2018年、MLBのレギュラーシーズン投球数5傑のPAPと投球内容
1 M・シャーザー(ナショナルズ)3493球/PAP2万6325
(先発33 完投2 完封1 100球以上26回 最大121球)
2 J・バーランダー(アストロズ)3427球/PAP2万4200
(先発34 完投1 完封1 100球以上19回 最大122球)
3 D・カイケル(アストロズ)3310球/PAP4503
(先発34 完投1 完封0 100球以上16回 最大112球)
4 J・シールズ(ホワイトソックス)3306球/PAP8407
(先発33 完投0 完封0 100球以上13回 最大114球)
5 M・クレビンジャー(インディアンス)3265球/PAP1万6857
(先発32 完投1 完封1 100球以上21回 最大116球)
全体の球数はMLBの方がかなり多い。
MLBのトップクラスの先発投手は、シーズン3000球を軽く超える球数を投げているが、PAPは、菅野とはケタが1つ違うのだ。3万を超えた投手はいない。
彼らは、調子が良くても100球前後で降板する。完投や完封は極めてまれだ。MLBの先発投手にとってはQS(Quality Start 先発して6回以上を投げて自責点3以下)こそが責務であって、完投、完封はおまけにすぎない。
PAPは「なぜ100球で区切るのか根拠が分からない」や「登板間隔が考慮されていない」など批判も多いが、MLBでは一定の根拠として重視されていることがこれを見てもわかる。
昨年のレギュラーシーズンで3000球を超えたのは、NPBでは巨人の菅野ただ1人だったが、MLBでは1位のシャーザーから、元巨人のマイルズ・マイコラス(カーディナルス3004球)まで、30人もいたのだ。
彼らは中4~5日で100球前後を投げ、シーズン通じて30登板で3000球に達している。
中にはバーランダーやシールズのように、このペースで10年以上も3000球を投げ続けている投手もいる。
日米の試合数の違い、投打のバランスの差などは考慮すべきだろうが、MLBではこと先発投手に関しては「長く実働させる」ための配慮があるといえるのではないか。