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盟友・フェルナンデスから羽生へ。
世界選手権後にかけた言葉とは。 

text by

田村明子

田村明子Akiko Tamura

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photograph byJMPA

posted2019/05/11 11:00

盟友・フェルナンデスから羽生へ。世界選手権後にかけた言葉とは。<Number Web> photograph by JMPA

平昌オリンピックでのハビエル・フェルナンデスと羽生結弦。親密な間柄を感じさせる柔らかな笑顔を見せた。

練習量が少ないことを告白したフェルナンデス。

 ことさら興味深かったのは、本人の口から、羽生に比べると自分の練習時間が短かかったとはっきり聞いたことだった。

 実はフェルナンデスは競技選手としては、練習量が少ないというのはスケート関係者の間ではよく知られた話だった。

「ジャンプを一通り跳んでみて、問題なければプログラム全体をさらって終える」という。もともと調子が良いジャンプを追い込んで練習しすぎて、逆に調子を崩すという選手もいるので、そのあたりの調整は自分に一番合った方法を見つけたのだろう。

 でも調子が悪いときは悪いときでイライラすると、「気分転換が必要になる」。だから調子が良くても悪くても、練習の時間はあまり長くないのだという。4回転は不調になっても、しばらくほうっておくと戻ってくる、と語っていたこともあった。

 この短時間集中のスタイルで世界タイトルを2度、欧州選手権タイトルを7度と、五輪銅メダルを獲得したのだから、よほど天性があったのだろうと思う。

世界選手権を見て感じたこと。

 最後に、「ところで埼玉の世界選手権はどう思った?」と聞いた。

 フェルナンデスは、ちょっとだけ間をおいてこう答えた。

「ユヅルが怪我を抱えていたことは、知っていました。SPでは1つだけミスをしたことが、ポイントに大きく響いてしまった。でも彼の性格は知っているから、フリーではきっとすごい演技を見せて追い上げてくるだろうと思っていました。彼は追い詰められたときに、本領を発揮するから」

 2019年世界選手権のSPで、羽生は冒頭で予定していた4回転サルコウが2回転になってしまい、94.87で3位発進という予想外の位置についた。そしてフリーではフェルナンデスも予想したように、鬼気迫る迫真の演技を見せた。だが、逆転はならずにネイサン・チェンに次いで銀メダルに終わった。

「フリーであれだけの演技でも逆転優勝できなかったことは、とても悔しかっただろうと思う。彼は日本のファンの前で勝つためにあの大会に来たのだから。でもネイサンはSPもフリーも、彼がやるべきことをやりました」

 フェルナンデスは、世界選手権が終わった後の関係者のパーティーに招かれて出席したときに、羽生本人と話をしたのだという。

「ぼくはユヅルに、こう言ったんです。きみは自分がやるべきことはやった。立派だったと思うし、自分の演技に誇りを持って満足して良いよ、と」

 やはり長年同じ氷の上で、羽生の努力を見てきた彼だから言える言葉だった。

Number977号掲載のハビエル・フェルナンデスの独占インタビューでは、長年一緒にトレーニングし、ライバルとして戦ってきた羽生結弦の「戦士」としての側面について、彼だけが知るエピソードを交えて話してくれました。ぜひ誌面をご覧ください。
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