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「セナの死」は生かされているか?
F1でマンホール蓋直撃の珍事故。
posted2019/05/07 11:05
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
AFLO
前代未聞の事故だった。
アゼルバイジャンGP初日の4月26日、フリー走行が開始して間もなく、セッションは赤旗中断となった。ウイリアムズのジョージ・ラッセルが駆るマシンに、コース上のマンホールの蓋が直撃するという珍しい事故が発生したからだった。
その衝撃は消火器が誤噴射してしまうほど大きく、乗っていたラッセルも火災が発生したと勘違いして、コース上にマシンを止めて、コクピットを脱出したほどだった。
マシンと地面との間を流れる空気の力を利用して、F1マシンには強力なダウンフォースが発生している。このダウンフォースによってマシンは地面に押し付けられるが、同時に路面とマシンとの間には強大な負圧が発生する。そのため、モナコやバクーのような一般道を使った市街地コースでは、グランプリ期間中は排水口やマンホールの蓋などが負圧によって浮き上がらないように、溶接などによって、路面に完全に固定させる処置がとられている。
ところがアゼルバイジャンGPでは、3本のボルトを用いて固定していたマンホールの蓋のうち、1つに取り付けミスがあった。
「シートを突き破っていたかもしれない」
事態を重く見たFIA(国際自動車連盟)は、コースの安全性を確認するためにフリー走行1回目を中止して、事故の原因を調査。マンホールの蓋の取り付け部分が破損していたことを確認したFIAは、コース上にある360個のマンホールをすべて点検し終わるまで、サポートレースも含め、セッションを一切再開させなかった。
激しい事故にもかかわらず、ラッセルは無事だった。だが「もし、マンホールがあと1~1.5cm高く跳ね上がっていたら、僕が座っているシートを突き破っていたかもしれない」(ラッセル)という。
貫通は免れたものの、マシンのモノコックにはひびが入り、交換を余儀なくされた。モノコックは1チーム年間数台しか製造されないほど高価で、ウイリアムズ副代表のクレア・ウイリアムズは「自分たちに何の落ち度もないのに、莫大な損害を被ったわけだから、私たちには損害賠償を請求する権利がある」と憤りを隠さなかった。