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パトリック・チャンが回想する、
ユヅル、ダイスケ、ソチ五輪。
posted2019/04/26 18:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Kaoru Watanabe/JMPA
「ヘーイ・アキコ!」と懐かしい声が、電話から響いてきた。
懐かしいと言っても、つい3カ月前の2018年12月、バンクーバーのGPファイナルの会場で会ったので、話をするのはそこまで久しぶりでもない。
プレスルームで「リズのこと、知ってたっけ?」と一緒にいた恋人を紹介してくれた。
カナダ出身の元ペア選手、エリザベス・プットナムである。ショーン・ワーツと組んで2006年四大陸選手権で3位に入ったこともあった、手足の長いきれいなスケーターだった。その彼女は、現在公私ともに彼のパートナーであるという。
「リズと共同のセミナーを終えたところなんだよ。もうすぐスターズオンアイスのリハーサルも始まるんだ」と、嬉しそうに言うパトリックの声からは、バンクーバーで恋人と一緒に幸せな日々を満喫している様子が伺えた。
「大丈夫だよ、冷静に思い返せるようになったから」
だがこの日の電話取材は、少々気が重かった。課されたテーマが、羽生結弦に敗れたソチオリンピックの思い出についてだったからである。世界タイトルを3年連続して手にした彼が、肝心のオリンピックで銀メダルに終わったのは大きな失望だったに違いない。でも時には聞きにくいことも聞かなくてはならないのは、記者の宿命である。
「大丈夫だよ。もう時間がたって自分でも冷静に思い返せるようになったから」
今号にも書いたが、最初に断って謝罪した私にチャンは明るい声でそう答えた。
パトリック・チャンと初めて会ったのは、彼がまだ12、3歳の頃だった。取材で訪れたトロントのグラニットクラブで、目をキラキラ輝かせて嬉しそうに滑っているアジア系の男の子に目がいった。
その少年は氷から上がると、人懐っこい笑顔であちらから挨拶をしてくれた。それがまだジュニアに参戦する前のパトリックだった。そのときは将来3度も世界タイトルを取る選手に成長するとは思っていなかったけれど、なんと楽しそうに滑る少年だろうと強い印象を受けた。