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バレーボールの新エース・黒後愛が語る
「私はまだまだ実力不足です」
posted2019/05/08 11:00
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph by
Kiichi Matsumoto
だが、黒後は自身を「まだまだ実力不足」と感じているという。
木村沙織さんがずっと憧れでした。チームが欲しい1点を取れるところや、攻撃だけでなく守りでもチームに貢献できるところなど、色々な武器を持っているところにすごく憧れていて。私にとっては生きる伝説みたいな遠い存在で、まだまだ近づけないと思っています。
実家は栃木なのですが、坂をちょっと下ったら、一面田んぼみたいなところで、時間の流れがすごくゆっくりしているんです。そこから、全日本の選手がたくさん出ているし、沙織さんの出身校でもあったので下北沢成徳高校に進学したのですが、とにかく色々驚くことが多かったですね。例えば、私は高校に行くまで一人で電車に乗ったことがなかったんです。駅にはたくさん人がいるし、出口もたくさんあるので、どこから入って、どこから出たらいいかも分からなくて。人見知りなので、駅員さんに話しかけることもできなくて、母に電話して「どうしたらいい?」って聞いていたぐらい、電車に乗ることが不安でした(笑)。
1度だけバレーを辞めたいと思った時期。
高校の練習はすごくハードでした。成徳高校は結構独特なスタイルで、ボール練習よりもトレーニングの方が多いんです。ウエイトをしたり、体幹トレーニングをしたり、走り込んだりという時間の方が長くて、最初はすごく嫌でしたね。そのぶんボールに触れる時間はすごく幸せだったし、学校の休み時間でも「サーブレシーブの練習したいな」とか言っていました。だけど、続けていくなかで、だんだんトレーニングがバレーボールに生きてくることが分かってきて、体の使い方や、筋肉がつくことでスパイクの打球が強くなったりして。すべてがバレーボールにつながるんだと実感してからは、自分からやるようになりました。
実は社会人になって、バレーボールを辞めたいと思った時期が1度だけありました。学生時代とのギャップもあったし、選手の年齢層が広いうえに私はコミュニケーション能力も高くないし……って自分の中で色々考えていたのだと思います。その時はボールを見るのも嫌だったのですが、試合会場に行くと、体育館の設営をしてくださる方や応援の方々がすごく温かくて。あぁ、頑張らなきゃいけないなって、乗り越えられたんです。今はバレーボールだけに集中させてもらえる環境で、向き合う時間もすごく長くなったので、時間の使い方やバレーボールについて考える時間を大切にしています。