“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
川崎の守護神チョン・ソンリョン。
最大の魅力は「リカバリー能力」だ!
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/04/23 07:00
ホーム初勝利を導いたGKチョン・ソンリョン。最後尾で支える彼の活躍なくして、3連覇はありえないだろう。
ボールも味方も敵も迫ってくる。
続いて、75分のシーン。
湘南はパス回しで敵陣まで押し込み、川崎のDFラインを下げさせると、左サイドからMF梅崎司がゴールに向かってクロスボールを上げる。ファーサイドで湘南DFフレイレが飛び込むと、競り合ったDF舞行龍に当たり、ゴールの右隅に跳んだ。ソンリョンの目の前でショートバウンドする難しいボールだったが、しっかりと軌道を見極めて、またもや左手一本でセーブ。ボールはゴールラインを割った。
DFラインがGKと近い距離まで下げられた状態での、ゴール前に向かってくるクロス。これは非常に飛び込みづらいボールだ。さらにボールも味方も敵も、至近距離で自分に向かって勢いよく飛び込んでくるという難しいシーン。
だが、ソンリョンは不用意に前に出ず、ゴールライン手前で構えた。並のGKであればその圧により踵に重心が置いてしまいがちだが、そうなると上半身も浮き上がる。しかし、両足の母指球にしっかりと重心を乗せることで、上半身を前に倒してボールの軌道だけをしっかりと捉えていた。
味方DFに当たる形ではあったが、シュートと変わらぬ勢いで絶妙なコースに飛んできたボールに対し、スムーズに左手を出した。しかも、ショートバウンドに対して正確に手のひらを差し出して、ピッチの外に弾き出しのだ。
意識する“重心”の置き方。
「僕の発想としては上半身を上げてしまうと自分のプレーができないと思っています。人によっては上半身を上げた方がプレーしやすいのかもしれませんが、僕はそうじゃない。一番大事なのは『自分の重心』というものを掴めているかどうか。そして、最後まで我慢する力が凄く重要です」
彼が口にした「重心の把握」は、まさに自分の身体をコントロールしている証だろう。それが身体に染み付いているからこそ、あの緊迫したシーンで無意識のうちに発揮することができた。