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ひねり王子+ド根性男の白井健三。
足首痛を押してのW杯3位に「幸せ」。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2019/04/15 07:30
故障を抱えながら1位のサミュエル・ミクラク(86.599点)、2位の谷川航(85.665点)に継ぐ3位に輝いた白井。
リオ五輪前、内村航平との逸話。
意外なまでに泥臭い戦いで意地を示した王子だが、実のところの白井は、知る人ぞ知る“ド根性キャラ”だ。
リオデジャネイロ五輪の直前合宿。ブラジルに到着した後の合宿練習で、左手小指を脱臼したが周囲には告げず、本番に挑んだ。
「はじめは脱臼している自覚はなくて、(内村)航平さんからも『まだ痛いの? 俺だったら寝て起きたら治るよ』と笑われていたくらいでした。後から脱臼だとわかりましたが、痛いと思うときも、人と話したりすることによって笑いに変えられた」
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影響があったのはゆかの倒立と、ゆか及び跳馬のフィニッシュ後のポーズだ。左手小指がまっすぐに伸びず、薬指から離れた状態で行なった演技は、合計6回(団体総合予選、団体決勝、種目別決勝)。
倒立技で静止する際にはフロアから左手小指を浮かせることでしのぎ、両手を上げるフィニッシュ後のポーズでは左手の小指だけ開いてしまったが、笑顔のパワーで審判の目を自分の顔に引きつけた。
「航平さんの笑いも懐かしい」
「振り返ると、リオ五輪は相当頑張っていたなと思います。航平さんの笑いも今では懐かしいですね」
このエピソードを聞いたのは、リオ五輪から数カ月がたった後。白井はさわやかな顔の向こうに痛みを隠しながら、団体金メダルと種目別跳馬の銅メダルを獲得していたのだった。
思い出のリオ五輪から2年半あまり。今回、ワールドカップ東京大会に左足首の痛みを押して出場し、得たものは大きい。
「この状況でやりきれたことは、今後の自信になる。次は、また強くなって戻ってきたな、と思ってもらえるようにしたいです」