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“新元号”初の関取、遅咲きの彩。
愛弟子の昇進に元寺尾の声も弾む。
posted2019/03/30 09:00
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Kyodo News
22歳の新鋭、貴景勝の大関昇進に沸き返る日。ひとりの力士の新十両昇進が発表された。苦節12年、元関脇寺尾の錣山親方が育てた「彩(いろどり)」、27歳だ。
小学生時代から地元の相撲道場でまわしを締めてきた。彩が5年生の時に入ってきたやんちゃな3年生が、現在同部屋で活躍する弟弟子の阿炎となった。
中学卒業後に入門した“叩き上げ”の彩。そのあとを追うように、高校卒業後に入門した阿炎は、恵まれた体躯と才能で、約2年で十両に昇進する。兄弟子である彩は、可愛い後輩の出世を喜びつつも、「先を越されて本当に悔しかった」と振り返る。
錣山親方が大喜びする理由。
そして東幕下筆頭で迎えた、この春場所。彩は悲願の新十両昇進を果たした。師匠の錣山親方が、端正な顔をほころばせて語る。
「うちの部屋としては4人目の関取です。1番時間が掛かって、1番苦労して上がってきた。もちろんそれまでの3人も嬉しかったですが、この彩の昇進が1番嬉しいんです。勝ち越しを決めた一番は、自分が見ると負けるから、見ていなかったんですね。体育館の裏の駐車場にいたんですが、彩の相撲が終わったら急にメールが届いて(勝ったのがわかり)思わず雄叫びを上げちゃいましたよ」
支度部屋のテレビで勝ち越しの一番を見届けた阿炎も、涙ぐんでいたという。
かつて、阿炎に「あなたにとっての恩人は?」との質問をしたことがある。いつもは“おふざけキャラ”の阿炎が、珍しく神妙な面持ちで言っていたのを思い出す。
「……彩さんですね。僕が幕下に番付を下げてクサっていた時に、喝を入れてくれたんです」
その当時の阿炎は十両を4場所勤め、幕下に陥落。彩曰く、「まったく稽古もせず、部屋の仕事もせずにヤサグレていた」時期があったそうだ。
「おい、あまり調子に乗ってるんじゃないぞ。お前みたいに才能に恵まれてパパーッと上がれたヤツが、こんなんでクサっちゃうなんて、もったいなさ過ぎるぞ!」
幼少時から兄のように慕い、なかなか目の出ない苦労人の彩の言葉が、弟弟子を目覚めさせた。