Jをめぐる冒険BACK NUMBER
FC東京の甘さを「本気」で変える。
殻を破った新主将の10番、東慶悟。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/03/29 17:30
FC東京の10番、と言えば梶山陽平のイメージだ。東慶悟はその印象を変えるような活躍を見せられるか。
「もっと本気出せよ、っていう」
「情けないです。7年間も在籍していて、ずっと起用してもらってきて、ひとつのタイトルも獲れていないなんて……」
シーズン開幕前、東は悔しそうに、嘆いた。
「大宮から来たとき、優勝するために来た、と言ったんですけど、今思うと、優勝できたらいいな、くらいの感覚で、本当に薄っぺらかったと思います。だから、本気を見せないといけない。キャプテンと10番は、もっと本気を出せよ、っていうメッセージとして受け取って、本気でタイトルを獲りにいかないといけないと思っています」
4節の名古屋戦、54分に生まれた永井のゴールを守り切ったFC東京は名古屋を抜き、4年ぶりにリーグ首位に立った。
その値千金の先制点をアシストしたのは、他でもない東だった。味方からのパスを受け、振り向きざまにスルーパスを繰り出して倒れ込んだ東は、永井のゴールを見届けるとベンチに駆け寄り、長谷川監督とがっちり抱擁をかわした。そして、永井を祝福しにいくチームメイトを脇目に、ひとりセンターサークルへと向かったのだ。
指揮官との信頼関係が感じられたこのシーンについて訊ねると、「喉が渇いていて給水しようとしたら、監督が目の前にいただけで。そんな大きな意味はないですよ」と東は笑みを浮かべてかわしたが、指揮官は東への信頼を隠さなかった。
すれ違いざまのスルーパスは絶品。
試合後の記者会見で「東は今日、別人のような活躍をしたが」との質問が飛ぶと、指揮官はきっぱりと否定した。
「慶悟は昨シーズンからキャプテンシーを持って、素晴らしいプレーをしてくれていた。今日もミスが非常に少なく、本来の東のプレーを存分に出してくれた。スルーパスについても、私はガンバ(大阪)でいろいろなパサーを見てきたが、東がすれ違いざまに出すスルーパスは本当に逸品だと思っています」
勝利を手繰り寄せたスルーパスと、その後の振る舞いには、たしかに東の本気が滲んでいた。
新キャプテンの本気がチーム内に伝播していけば――。どことなく甘さが漂ってきたFC東京のイメージが、ようやく払拭される日が来るかもしれない。