イチ流に触れてBACK NUMBER
イチローを支えた弓子夫人と、
2800個の塩おにぎり、愛犬一弓。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/03/28 08:00
日米通算3604試合出場は歴代最多。うちMLBでは19年間で2653試合に出場した。
カウントされなかった1520個とは?
イチローが食べてきたおにぎりは塩にぎり。具材も入っていなければ、のりも巻かれていない。シンプルでありながら、米も水も塩も厳選した拘りの一品。彼が食した数は実のところ、もっと多かった。
米国の春のキャンプとオープン戦は約40日間に及ぶ。今年も含め、彼は19年間スプリングトレーニングを過ごした。そして、この日々も彼は毎日、おにぎりを食べていた。総数は19×40×2で1520個くらいか。だが、イチローはこの数を含めなかった。彼の意識の中ではあくまでも“真剣勝負の中でともにしたもの”だった。
弓子夫人と愛犬への感謝。
とはいえ、弓子夫人が選手イチローを支えてきた観点からすれば、これらは含まれてもいいと感じる。総数は4300を超える。イチローの日米通算安打は4367本。弓子夫人の勲章と言っていいのではないだろうか。
「いやぁ、頑張ってくれましたね。一番頑張ってくれたと思います。僕はゆっくりする気はないですけど、妻にはゆっくりして欲しいと思います」
深い情愛と気持ちのこもった言葉だった。
イチローの発言には彼なりのスタンスが、いつもある。「聞かれたから、答える」だ。自分から発信することはかなり稀と感じるが、イチローは今回、夫人とともに愛犬一弓への思いは自ら付け加えた。
「それと一弓ですね。我が家の愛犬ですね。柴犬です。現在17歳と7カ月かな。さすがにおじいちゃんになってきて、毎日フラフラなんですけど、懸命に生きているんですよね。その姿を見たら、それは、俺、がんばらなきゃなと。本当にそう思いました。まさか最後まで一緒に、僕が現役を終える時まで一緒に過ごせるとは思っていなかったので、大変感慨深いですね。ほんと、妻と一弓には感謝の思いしかないです」
現役引退会見でよどみなく話したイチロー。彼は多くに支えられ、野球選手としての人生を全うした。本当に幸せな現役生活を送ったのだと感じた。