プロ野球亭日乗BACK NUMBER
偉大なるイチロー、現役最後の日。
「野球を愛すること」を貫いた28年。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/03/22 14:00
「イチローなら必ずやってくれる!」と誰もがずっと夢を見ていられた……あまりにも偉大過ぎる、28年の野球人生であった。
たった1人の“凱旋”。
8回裏のマリナーズの守り。
ベンチに戻ったイチローは帽子をかぶってグラブを手にすると、淡々とライトのポジションへと走った。ただ、イチロー以外のプレーヤーがなかなか守備位置につこうとしない中で、スコット・サービス監督がベンチを出てアンパイアに交代を告げた。
クルッとライトスタンドに向かって両手を掲げ、そして今度はグラブを持った左手を振って別れを告げる。
そうして球場全体のスタンディングオベーションに包まれながら、たった1人のグラウンドをベンチに“凱旋”した。
一塁ベンチ前では、かつてはマリナーズ監督として共に戦ったオークランド・アスレチックスのボブ・メルビン監督とナインにグラブを掲げて胸を叩いて感謝と敬意を表明。そして三塁ベンチ前では、出迎えたチームメイトと抱擁を交わした。
サービス監督やチームメイトと抱き合い、今回の遠征に同行していたチームのレジェンド、ケン・グリフィー・ジュニア氏やスタッフと握手を交わした。
公式戦としては異例中の異例の風景。
「あれは号泣中の号泣だったね」
イチローがこう振り返ったのは、この日がメジャーデビュー戦だった菊池雄星投手だ。
すでにイチローと抱き合う前から泣きじゃくってはいたが、抱きついた時には、イチローが菊池に何かを語りかけるシーンも見られた。
そしてマイアミ・マーリンズ時代からイチローを師と仰いできたディー・ゴードン内野手。笑顔で抱き合ったのち、すぐさま二塁の守備位置に走ると、そこでしゃがみこんでしまい、涙を流していた。
公式戦の最中とは思えない異例のイベントだったが、それもイチローという選手の偉大な功績と、生まれ故郷の日本という舞台が整ったからこそ可能だったのかもしれない。