プロ野球亭日乗BACK NUMBER
偉大なるイチロー、現役最後の日。
「野球を愛すること」を貫いた28年。
posted2019/03/22 14:00
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Naoya Sanuki
深夜23時56分。東京ドームホテルの地下に設えられた会見場に「背番号51」がやってきた。
「こんなにいるの? びっくりするわ!」
200人を超える報道陣が殺到した会見場を見回して、イチローはおどけた表情を見せた。そして次の瞬間、引き締まった表情でこう切り出した。
「こんなに遅い時間にお集まりいただいて、ありがとうございます。今日のゲームを最後に日本で9年、アメリカで19年目に突入したところだった現役生活にピリオドを打ち、引退することになりました。最後にこのユニフォームを着て、この日を迎えられたことを幸せに感じています」
正式な「引退」の表明だった。
恐らく最後のユニフォームになるのだろう――詰め掛けた4万6451人の観衆の誰もがそんな思いを胸に、「背番号51」を追いかけ始めた試合だった。
ところが三邪飛に倒れた2回の第1打席直後に「引退」のニュースが駆け巡り、スマホ等でそれを知った東京ドームのファンの惜別の想いは一気に加速していった。
そんな中で、イチローは最後まで「1本」を求めて打席に立ち続けたのだ。
「なんとか1本打ちたかった」
自然発生的に湧き上がるイチローコールの中で、第2打席は二塁へのゴロ、第3打席はホアキン・ソリア投手のスライダーを見逃して三振に倒れた。
そして8回2死二塁の第4打席は1ボール2ストライクから2球連続ファウルで粘った末に、遊撃へのゴロを放った。
捕球した遊撃手が一瞬ボールを握り直して間一髪のタイミングで一塁を駆け抜けたが、一塁塁審のコールは「アウト」。
「なんとか1本打ちたかった」というメジャー通算3090本目、日米通算4368本目の安打はならなかった。
そして別れの時である。