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日立台にネルシーニョが帰ってきた。
名将はピッチの内も外も掌握する。
posted2019/03/06 08:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
J.LEAGUE
町田ゼルビアとのホーム開幕戦を制し、開幕2連勝を飾った柏レイソルを見て私はつくづく思った。
「この人がいると、やっぱりチームは落ちつくんだな」
この人というのは、もちろん4年ぶりの復帰を果たしたネルシーニョ監督のことである。
レノファ山口に先制を許した開幕戦がそうだったように、町田戦も厳しいゲームとなった。
前半はボールサイドに密集する町田得意のプレッシングに押し込まれ、自陣で窮屈なサッカーを強いられた。
だが、ネルシーニョは交代を生かして巧みに流れを変える。
後半開始早々、193cmの長身オルンガを最前線に投入。オルンガとクリスティアーノというボールが収まるふたりを並べて、ダイナミックにボールを動かすことで、町田の強みである狭い局面での集団戦ができないようにゲームを変えてしまった。
長いボールを使って柏が前線でポイントを作るようになると、町田は前後左右に大きく揺さぶられる格好になり、やがて出足が鈍り始めた。
タレントの力を引き出した交代策。
前半にはなかった、スペースと時間が生まれた。こうなるとタレントに勝る、柏の個人技が生きてくる。唯一の得点となった67分の瀬川祐輔のゴールは、自陣でのピンチを切り返したカウンターから。3対3の局面で、クリスティアーノの突破力と瀬川のフィニッシュのセンスが見事に噛み合い、ゴールという形で結実した。
充実したタレントの力を監督が巧みに引き出した、ホーム開幕戦の勝利だった。
ネルシーニョ監督の手腕は、ふたつの言葉で言い表わすことができる。ひとつは役割分担、もうひとつが対応力だ。
彼は、選手たちそれぞれの役割分担を非常に重視する。
Jリーグでは「流動的」という言葉がポジティブな意味で使われることが多いが、ネルシーニョは流動性の少ないゲームを志向する。つまりサイドバックはサイドバックの持ち場を守り、ボランチはボランチの持ち場を守る。