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韓国文学界を代表する作家が、卓球で人類の存在意義を問う。~ラケットを持つことは、自分の意見を持つことだ~
text by
杉江松恋McKoy Sugie
photograph bySports Graphic Number
posted2017/08/07 07:00
『ピンポン』パク・ミンギュ著 斎藤真理子訳 白水社 2200円+税
――自分のラケットを持つということはね、いってみれば初めて自分の意見を持つってことなんだよ。
ソウルオープンのために来韓し、そのまま居着いてたという元フランス人のセクラテンから、僕こと〈釘〉と〈モアイ〉はそんなアドバイスをもらいながらラケットを買い、偶然原っぱで見つけた卓球台で練習を始める。そこは韓国で最初の卓球用品会社があった場所なのだという。二人のラケットが軽やかに音を立てる。ピンポン、ピンポン、ピンポン。
『ピンポン』は、現代の韓国文学界を代表する作家パク・ミンギュが2006年に発表した作品だ。'14年に邦訳された短篇集『カステラ』(クレイン)が第1回日本翻訳大賞を受賞したことによって我が国でもパクの名は知られるようになった。本書を読んで私が連想したのは、かつて「週刊プレイボーイ」に連載されて話題を作った野球漫画『愛星団徒』(松田一輝作)なのだが、それでピンとくる読者は今すぐ書店に走ったほうがいいと思う。一口で言えば本書は、卓球を通じて人類の存在意義を問う小説なのである。