新刊ドラフト会議BACK NUMBER
過酷なレースで芽生えた、イヌと人との特殊な関係。~イヌと人間の一方的な関係が崩れる瞬間~
text by
角幡唯介Yuusuke Kakuhata
photograph bySports Graphic Number
posted2017/07/11 10:00
『ジャングルの極限レースを走った犬 アーサー』ミカエル・リンドノード著 坪野圭介訳 早川書房 1800円+税
最近、毎年のようにイヌと一緒に橇をひいて北極の氷原を歩いている。極地でイヌと命を託しあう旅をしていると、人間とイヌとの関係の特異さについて考えることが多い。イヌはオオカミから進化して人間と共存することを自ら選んだという点で、非常にかわった動物だ。人間もイヌだけは家畜の中で別格の地位を与えているが、それはなぜなのだろう。
イヌに関係する本は数多出版されているが、本書は過酷な環境下で出会ったイヌとの特殊な関係が描かれており、ちょっと異色だ。エクアドルのアドベンチャーレースに出場中のスウェーデンチームの前に一匹の傷ついたイヌが現れる。食べ物を分けてやると離れなくなり、密林を一緒に歩き、カヌーのパートでは激流を泳ぎ、結局、一緒にゴールをはたす。チームのキャプテン(著者)はこのイヌに宿命的な愛情を感じ、煩わしい行政手続きを乗り越え、なんとかスウェーデンに連れ帰って家族の一員として迎えるという実話である。