ブックソムリエ ~必読!オールタイムベスト~BACK NUMBER
魚博士が豊富な知識を披露。読み継がれる釣りの名著。~技術書でも随筆でもない、釣りという文化について~
text by
馬立勝Masaru Madate
photograph bySports Graphic Number
posted2017/07/12 07:00
『釣りの科学』檜山義夫著 岩波新書(重版未定・長期品切れ)
その道の大家が自分の専門分野を素人に平易に分かりやすく語る。それがかつての新書の王道だった。本書はまさしくそれ。著者は水産資源学、魚類生態学の権威、「魚博士」だ。開高健“釣り文学”の第一作『私の釣魚大全』の餌談義に著者の名が出てくる。餌のゴカイ不足に悩んだ餌問屋の老人がビニールでゴカイの擬餌を作ろうと思い立つ。相談した相手が著者だった。ゴカイより優れた“ロッカイ”として売り出し、失敗する愉快な話だ。碩学が餌問屋の老人の“相談役”というのが嬉しくなる。本書ではそんなエピソードで想像される人柄が滲み出る。