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夫がスイスで遭難、4年後に遺体発見。
残された妻が語る「待つ」ことの意味。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph byMayumi Soma/Sho Fujimaki
posted2019/02/16 08:00
事故直前のレース中、笑顔をみせるプロトレイルランナー相馬剛。現在、この写真は遺影として自宅に飾られている。
父の遺伝子を受け継ぐ長女。
遭難事故からそれほど時間が経っていない頃、ある僧侶が話してくれた言葉にとても救われたという。
「人の生きる時間は80年だろうが40年だろうが、たいした差じゃない。何千年、何万年と生き続ける魂から見たら、たいして変わらない。短くても長くても人それぞれに使命があって、それを伝える役目はちゃんと果たせたんじゃないかって、そう言ってくださって。相馬さんは使命を果たしたのかもしれません。もちろん、生きていたらもっといろんなことができたでしょうけど。
それに、同情されたくないんです。同情されると、自分たちのすべてが否定されてしまう気がするから。私は、死は不幸なだけじゃないと思っています。私たちは元気に生きているし、ときどき思うんです、何かに選ばれてこういう人生になったのかなと。相馬さんの相手が自分だったから、いま耐えることができているのかもしれないなと。運命なのかなと思うんです」
アイガーでのレース中、コース上で日本人の知人が冗談を言いながら撮ったという写真の相馬さんは珍しく笑っている。いまその写真は遺影として飾られている。遺影のそばには発見されたザックの中に入っていた、動かなくなったスマートフォンも置かれていた。
この春に高校生となる長女の若葉さんは、進学したら山の世界に足を踏み入れたいのだという。父の姿を通して山への憧れや思いが募っていったのかもしれない。
真由美さんはそんな娘さんの想いを理解し、そっと見守ろうと決めている。