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楢崎正剛が現役引退を決めた理由。
「これでは、ダメ。ダメなんよ」
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byGetty Images
posted2019/01/10 10:30
楢崎正剛に対してチームメイト、サポーターが寄せる信頼感は特別なものだ。
身体と心のバランスがついに。
あれから約3年。たかが3年だが、その年月は、自分の心身にムチを打ちながら40代を迎えた経験豊富な戦士にとっては、あまりにも多くの変化をもたらしたのだった。
30代から抱えていた膝や足首の痛みは、ここ数年どんどん増していった。手術や治療を繰り返しグラウンドに立ち続けた。
体は否が応でも経年劣化していくもの。そこに抗うかのように、心だけはやる気で満たしていたい。その一心でキーパーグローブをつけてきた。
しかし遂に2018年、身体と心のバランスが、楢崎の中で保てなくなっていく。シーズンを通して、試合出場は最後までなかった。プロ24年目にして初めてのことだった。練習の紅白戦にすら、入れないことも続いた。
悔しさがないわけがないが、自分が抱く違和感も確実に存在している。
GKだからこそ大切にしてきた感覚。
昨年末、名古屋で会った楢崎は、すでに決めていた。引退。抱いていた違和感は、選手を続ける上で、彼にとっては受け入れられないものだった。
「今年1年の(試合に出られない)流れがあって、ちょっと落ちた状態からまた次のシーズンに目を向ければ、また気持ちが上がっていくのかなと思っていた。そう自分でも期待していた。でも、ガッと乗ってこない。これは選手としてあまり良くないなと。二十数年やってきて、こんなことは初めて。
正直に言って、俺の中ではかつての自分と今でギャップがある。みんなまだまだできると言ってくれる。それはありがたい。でも、ここからまだプレーを続けるにしても、見ている人たちは以前の自分の姿をイメージすると思う。その期待に応えられるかといったら、結構不安があるんよね。チームに貢献できるか、わからない。それは自分としても、辛い」
なぜ、ギャップが生じたのか。年齢やケガの影響と言ってしまうのは簡単だ。
楢崎には、GKという職人的なポジションの選手だからこそ、大切にしていた感覚があった。それが今、鈍ってきている。