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楢崎正剛が現役引退を決めた理由。
「これでは、ダメ。ダメなんよ」
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byGetty Images
posted2019/01/10 10:30
楢崎正剛に対してチームメイト、サポーターが寄せる信頼感は特別なものだ。
「これは俺が決めたことやから」
長くプレーしてきたからこそ、エピソードも多い。この引退に際して彼が感じたことは、また別の機会に記したい。
発表日に聞いた声は、スッキリとしていた。
「年末に話したときと、自分の引退への気持ちは変わることなくここまで来たから」
あの時、自分に抱いた違和感を吐露した時点で、その気持ちは固まっていた。
名古屋グランパスからは、12月頭に契約満了の報せを受けていた。長年チームを支え、初のリーグ制覇にも大きく貢献した最大の功労者。彼に対するクラブの態度には厳しい意見も飛び、今回の引退話にもその1件がついて回る。
ただ、楢崎は言う。
「そんなことは、関係ない。自分のサッカー人生。これは俺が決めたことやから」
自らを誇らない。チームでも代表でも、味方を立ててきた。普段は口下手な一面はあるが、GKというポジションらしく、まさに職人肌のリーダーとして背中で見せ、プレーで示してきた。
信頼、安心という言葉がここまで似合うサッカー選手は、そうはいない。
そんな寡黙な男が、最後は自分の思いだけで、下した決断――。
楢崎正剛にしか、わからないことがある。自らの美学は、最後まで貫き通す。