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楢崎正剛が現役引退を決めた理由。
「これでは、ダメ。ダメなんよ」
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byGetty Images
posted2019/01/10 10:30
楢崎正剛に対してチームメイト、サポーターが寄せる信頼感は特別なものだ。
力を制限してしまう自分に気づき……。
引退発表直前まで、多くの人から引き止める声が届いた。しかし、自分に嘘をついてまで、プレーをする選択はできなかった。
「抗おうとして、ここ数年はやってきたんやと思う。今年もそうやった。常に練習から本気の100%でやっているべきやし、長い間そうしてきた。でも、日々のトレーニングで徐々に自分に制限してしまうことが多くなっていった。足が辛いとか、無理をして体自体を壊したくないとか。プレーできる状態の体に、最低限キープしようとする意識やったと思う。
でもGKは職人でもある。そのプレーや役割を考えたら、そこは絶対に制限してはいけないものだと、俺は思っている。これが正しいかどうかはわからへんけど、間違いなく自分はそういうことは好きじゃない。自分の姿には、自分が一番気づくもの。こんな状態は、俺は好きやない」
力を抑えていてはGKは務まらない。
GKのトレーニングは一見地味だが、ものすごくハードだ。ボールへの反応を促進させるため、常に俊敏に体を動かし続ける。大きな体格を前に後ろに、そして横に倒していく。手足を目一杯伸ばし、少しでもボールをゴール外へと追いやろうとする。
練習から、スピードと衝撃は常にMAX状態。激しい毎日を彼らは過ごしている。
楢崎は、「試合は1週間に1、2回だけのもの。毎日の練習や準備に、意識はより注がれていく。GKはそういう地味なところの積み重ねやから」と言う。その大事にしていた日々を、全力で全うできないGKになっていた。思い切ってボールに飛び出す瞬間、これまでよりも力を抑えて動いている自分がそこにいた。
「これでは、ダメ。ダメなんよ」
それが、楢崎が自ら引き際を決めた、大きな理由だった。