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大きなチャンスつかんだF1界の俊英、
P・ガスリーの笑顔と闘志。
text by
今宮雅子Masako Imamiya
photograph byNoriaki Mitsuhashi
posted2018/12/27 17:00
2017年にスーパーフォーミュラでシリーズ2位となると同年9月にトロロッソでF1デビュー、来年はレッドブルというスピード出世の22歳。
日本は「第二のホーム」。
レースが大好きなガスリー家に生まれたピエールは9歳でカートを始め、13歳で故郷ルーアンを離れてルマンに移り住み、フランスモータースポーツ連盟が主宰するオートスポーツアカデミーで文武両道の教育を受けた。大学入学資格(バカロレア)もルマンで取得。レッドブル育成ドライバーになってからは、チームのベース、イギリスのミルトンキーンズにも住んだ。
そんなガスリーが、日本は「第二のホーム」だと言う。新鮮だったのは洗浄機付きのトイレ、不思議なのは片面が羽毛で片面がジャリジャリしたホテルの枕、気に入った日本食は味噌汁。冷たく「No」と言われることが一度もなかった国――。
先入観を持たない分だけ、F1への"通過地点"であるGP2と、国内最高峰のカテゴリーとして熟成されたスーパーフォーミュラの違いを理解するのも早かった。それはガスリーというドライバーの最大の長所だ。どのカテゴリーでも心を開いてすべての情報を吸収し試行錯誤した後、ある時点で自ら進むべき道を見出し、そこからは飛躍的に速くなる。人間関係もドライビングも、滑らかなドライバーだ。
「ポテンシャル――才能がすごく大きい」
今シーズンからホンダF1を率いる田辺豊治テクニカルディレクターは、22歳のドライバーを語る言葉がとても温かい。
「ポテンシャル――才能がすごく大きい。F1ドライバーですから色々な経験も積んでいるでしょうし"若いのに"って言っちゃいけないのかもしれないけど、とにかく落ち着いてレースができる。周りを信じて、状況をきちんと把握して組み立てられる。そして安定して速い」
それに……
「"いい人"って言うと違う意味に捉えられてしまうのかな。人間的に、すごく可愛いんです。ワイワイ騒ぐことはないんだけど、とにかく笑顔がすごく印象的でいいんですよね。HRD Sakuraに来たときも(アイルトン・セナやゲルハルト・ベルガーが乗った'91年のマシン)マクラーレンMP4/6とロータス100Tを発見したらすぐ『乗っていい?』って訊くんです。ちょっと乗ってみて『ありがとう』って降りるのかと思ったら、ステアリングを切ったり、ギアをいじったり、ニコニコしながらずっとやってる。『写真撮って、撮って』って、本当に子供みたいに無邪気で。だけど、自分のレースになるとすごく落ち着いてるんです」
ホンダの第2期F1活動においてベルガーから絶対的な信頼を得たエンジニア、アメリカのCARTやインディシリーズにおいても数々のチャンピオン、チームオーナーと揺るぎのない関係を築いてきた田辺が、翳りを知らない若い才能に目を細める。