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「応援には結果で応えたいと思っている」
女王・野中生萌のまっすぐな“野望”。 

text by

津金壱郎

津金壱郎Ichiro Tsugane

PROFILE

photograph byMiki Fukano

posted2018/12/14 11:00

「応援には結果で応えたいと思っている」女王・野中生萌のまっすぐな“野望”。<Number Web> photograph by Miki Fukano

五輪があるから頑張れている。

「ファイナルだけのパフォーマンスを比べたら、優勝者とはそれほど変わらないなって。カウントバックで負けるパターンが多かったので、来年はどのラウンドでも良いパフォーマンスをするのが課題だと思っています。でも、課題内容は準決勝の方が決勝よりも難しかったりするので、そこへ対応するには単純に登ることのレベルアップが必要だし、細かいミスも減らさないといけないですね」

 念願のタイトルを手にした野中は、来シーズンの照準を日本で開催される世界選手権に合わせている。それは世界選手権コンバインドで上位7選手(※1カ国2名まで)に東京五輪への出場枠が与えられるからだ。

 2016年夏に東京五輪の実施種目に決まって以降、野中はメディアなどにオリンピックへの意気込みを語ってきた。ただし、実際に彼女が本気で東京五輪を目指す覚悟を決めてからは1年にも満たない。

「種目がコンバインドに決まった時は3種目やる選手なんていなかったし、1種目に打ち込んでいる選手へのリスペクトがないように感じたんです。だから、最初は納得いかなくて。

 でも、オリンピックは私のクライミング能力を高める凄いチャンスだし、そこに挑戦するなら全力で頑張ろうと決めて。実際にやり始めたら難しいし、課題もいっぱいある。だけど今は、逆にオリンピックがあるからこそ頑張れているし、本気で取り組んでよかったと思っています」

 今年3月から本格的に取り組み始めたスピードでは、東京五輪出場を狙う各国のライバルたちに持ちタイムで大きなアドバンテージを築いている。11月のアジア選手権では、ぶっつけ本番に等しい状況で試した新しいムーブで自己ベストを連発した。

「ビックリでした。スピードの練習は2カ月くらい全然してなくて、大会前に2回やっただけ。とりあえず新しいムーブを試そう程度。それが大会期間中にスピード予選やコンバインド決勝で何本も登れたことで、新しいムーブに慣れた感じでした。

 後で動画をチェックしたら、もっとスムーズにできると思えたし、心拍数も呼吸も上がっている状態でのタイムだったことを考えれば、まだまだ縮められると思っています」

 来年の世界選手権や2020年の東京五輪を想定した時に、スピードとボルダリングで圧倒的な実力を誇る野中にとって、メダル獲得への課題になるのがリードだ。

「今年の世界選手権ではコンバインド決勝のスピードはスタートでミスをして4位。大会の緊張感のなかではミスが起きやすいと学べました。アジア選手権では自分にプレッシャーを思い切りかけて、緊張感に打ち勝つ練習の場にもしました。

 ただ、ここから誰が力を伸ばすかわからないので油断はできないし、ベースアップは必要だけど、やっぱり課題はリード。これまでは持久力を高めるトレーニングをしてこなかったので、その練習時間を増やせば現状より持久力は高まるので、数をこなすしかないですね」

【次ページ】 人間性を含めた最強クライマーに。

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