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「ユヅルのほうがスケートが上手」
プルシェンコが語る羽生結弦の実力。
text by
栗田智Satoshi Kurita
photograph byAFLO
posted2018/11/22 11:30
今年1月17日、ロシア・モスクワで行なわれた欧州選手権の開幕式で一緒に滑る、プルシェンコと息子のサーシャ君。
彼の方がスケートが上手。
反対に、似ていないところを訊ねると、「彼のほうがスケートが上手なことかな」とポツリ。てっきり冗談を言っているものだと思いきや、本人はいたって真面目な表情だ。
「冗談ではありません。つまりフィギュアスケートはつねに進化しているということです。それがあるべき姿なのです。自動車がどんどん便利になっていくように。今ではみんながスマートフォンを使いこなしているように」
フィギュアスケートの練習環境についても同様だと言う。
「ソ連時代のスケートリンクは寒くて寒くて、私が子どもの頃は厚手の毛糸の帽子をかぶって、手袋をして、ぶるぶると震えながら練習していたものです。それがどうですか。今の子どもたちは恵まれています。過去から現在まであらゆる選手のスケートを手軽に動画で見て研究することもできます。息子のサーシャもユヅルのビデオをよく見ています」
ユヅルが世界最高の選手です。
息子をはじめ生徒たちには羽生のジャンプをお手本に練習させていると言う。
「私はもうお手本じゃありません。なぜなら時計の針は進んでいるからです。今この瞬間、ユヅルが世界最高の選手です。間違いなく彼こそが本物のフィギュアスケーターです。しかし、ひとつだけ弱点がある。今は言いません。シーズンが終わったときに彼に直接伝えようと思っています。言いかえれば、彼にはまだまだ可能性が残されているということです」
技術的なことかメンタル的なことかヒントを求めると、「それは秘密」と言ってウィンクしてみせる。リンクサイドのベンチに並んで座ってのインタビューである。4、50センチの至近距離でウィンクされ、何も言えなくなってしまった。
追い打ちをかけるように、プルシェンコはリンクで練習している息子を呼び寄せた。
「サーシャ、おいで。この人は日本人だよ。日本語であいさつしてごらん」と父親に促されると、サーシャ君は「コンニチワー」と言って握手してくれた。そして再びリンクに戻るや、羽生直伝のヘランジ、ハイドロ、イナバウアー、アクセルジャンプを次々と披露してくれた。思わず仕事を忘れ、立ち上がって拍手してしまった。天使のような笑顔に、5歳とは思えない身のこなし、将来が楽しみだ。