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ブッフォンの後を追う才能たち。
イタリアに名GKが生まれる理由。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2018/11/14 10:30
インドネシア人の父とイタリア人の母を持つアウデロは、19歳でユーベのトップに昇格。今季からサンプドリアにレンタル。
“パッキャオ”と呼ばれるGK。
今季のカンピオナート序盤、最も堅守を誇ったチームは意外にもサンプドリアだった。
10月上旬の8節終了時までに許した失点はわずかに4つ。7連覇王者の首位ユーベ(5失点)すら凌駕する鉄壁ぶりに誰もが目を疑った。主役は今夏加入したU21イタリア代表の守護神アウデロだ。
若くして絶妙なセーブ技術と冷静さを失わない精神力。8試合中4試合を完封し、セーブ率は驚異の88%を記録した。
昨季プレーしたヴェネツィア(セリエB)での渾名は「パッキャオ」。インドネシア人の父を持つアウデロの面相と強靭なメンタルに驚嘆したチームメイトたちが、6階級を制したフィリピンの英雄になぞらえて与えたものだ。
赤道の下にある島々の一つで生まれた後、1歳で母の故郷であるトリノ近郊に移り住んだ。5歳から地元のチームでボールを蹴り始め、11歳でユベントスの下部組織に入った。
アウデロは、まるで日本のスポーツ名門校の出身者が母校を誇るように、2017年の夏にヴェネツィアへレンタル移籍するまで過ごしたユベントスでの9年間こそ、自身の源流だと公言して憚らない。
「ユーベは人生の道場だ」
「ユーベは人生の道場みたいなところだ。育成部門に通う者は小さな子供の頃から、順番を待つときに2列に並ぶことやバッグはつねに脇に置くことみたいな生活のあり方まで事細かく躾けられる。何かを『行う』と『よく行う』の間には違いがある。それを仕込まれるのが“ユーベ流”だ」
10代の頃から所属先を転々とするのが当たり前の欧州サッカー界では珍しくなってしまったが、アウデロには“ユーベの看板を背負う以上恥ずかしいプレーはできない”という強烈な自負がある。
憧れを通り越して崇拝の対象だった前主将ブッフォンからは開幕前に激励のメールをもらった。小さい頃から染み付いたアウデロの強烈な自負は、レンタル中の身だからこそより強まっている。
「つねに集中して落ち着きを失わないことが大事だ。GKというポジションに求められるのは、己の内面と向かい合うことだと思っている」