マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
根尾昂が捕手になるのは本当にナシ?
ぜひ一度試してほしい数多くの理由。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/11/02 07:00
根尾昂は4球団競合のすえ、中日が交渉権を獲得した。果たしてどんなキャリアを歩くのか楽しみでならない。
投手の気持ちがわかることもプラス。
話してみてわかったが、野球的好奇心も旺盛で、評判通り頭の回転も速い。
これだけ条件が揃っていて、なぜ「捕手」という案にみんなそんなに驚き、笑うのか。
さらに挙げると、根尾昂が「投手」としての経験値が高いのも、彼を捕手に推す理由の1つだ。
投手の気持ちがわかっている。そう考えるからだ。
バッテリーを組む上で、捕手がついついやらかしてしまいがちなのが、「ひとりよがりの配球」というやつだ。
まじめで勉強熱心で、人一倍相手打者を研究、観察している捕手ほどやらかしがちなのが、これだ。
相手打者をやっつけるために、知るかぎりのデータを駆使して、絶対打ち取れる「配球プラン」を作る。
初球から打ってくるバッターじゃない。それなら、変化球で入ろう。よっし、いきなりフォークだ。外に落とそう。バッターはあわてるだろう。打ちにくるはずだ。そこで、対角線のインハイへ。胸元を速いので突いて追い込む。1つ外す。はっきりしたウエストなんか使わない。外に、スライダーでボール1つ外して……。
この妄想プランを投手に明かしたら、たぶん鼻で笑われるはずだ。「こんな難しいこと、できるわけないだろ。それも立ち上がりから」、と。
これが、投手を経験したことのない捕手の発想なのだ。
ボールを投げる投手が、果たして「できる」のか「できない」のか。
いちばん肝心なそこのところが欠落して、ひとりよがりの「自分だけに美しく見える絵」を描いてしまう。
まさに、絵に描いたモチ。
根尾ならば投手目線になれる。
投手を経験している選手には、そうした心配が少ない。少なくとも、俊英・根尾昂捕手はそうした愚をおかすことはないと見ている。
むしろ、投手目線で状況を見渡して、今日バッテリーを組んでいるこの投手の実力で、今日の調子なら、どんな配球をしてあげれば快適に腕が振れるのか、気分よく全力投球できるのか。
そうした発想で、投手をリードしていける捕手になってくれるのではないか。そんなイメージがあっさり頭に浮かぶ。