プロ野球亭日乗BACK NUMBER
原監督、就任会見の発言を分析する。
「管理野球」と「のびのび」の共存。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2018/10/24 11:40
3度目の原体制は過去2回と同じなのか、まったく違うのか。記者会見から巨大な期待感が渦巻いた。
阿部慎之助に出したバントのサイン。
思い出すのは2012年6月5日、ヤフードーム(現ヤフオクドーム)で行われたソフトバンクとの交流戦での出来事だった。
両軍無得点で迎えた4回巨人の攻撃は無死一、二塁。打席に入ったのは5番で捕手の阿部慎之助だった。
2度、3度と素振りをくれて打席の足場を固めた背番号10に、マウンドの山田大樹投手が投じた初球だった。
阿部はためらいもなくバットに左手を添えて送りバントをした。
投手前にきっちり転がした打球は一塁に送球され、走者はそれぞれ二、三塁へと進んだ。一発で送りバントを成功させた阿部は、淡々とした表情で三塁ベンチに戻ってきた。
2012年の阿部は打率3割4分、27本塁打、104打点で首位打者と打点王に輝いた、まさに全盛期の真っ只中だった。その巨人打線の背骨を支える中心選手に、試合の序盤で出した送りバントのサインだ。
この采配には「焦りすぎ」等々の批判ももちろんあった。一方で「それだけこの試合を勝つことへの執念を見せた采配」という評論家もいた。
個人の力は前提、そのうえで。
ただ本当のところはそのどちらでもなかったと、後に原監督は明かしている。
「実は交流戦に入る前のミーティングでこんな話をしたんです」
この年の巨人は開幕ダッシュに失敗して4月を9勝11敗2分と負け越した。5月に入って徐々に調子を取り戻していたが、交流戦直前の2カードは5試合で2勝3分けと肝心なところで勝ちきれずに、あとひと息、波に乗り切れない状態にあったのだ。
そんな中でのミーティングで原監督はこう話し出した。
「強いチームには、もちろん個人の力、高いスキルというのは不可欠だ」
指揮官の言葉は続いた。
「20勝できる投手に3割、30ホーマーできる打者。そういう個々の高い能力が揃って初めてチームプレーが成り立つ。それがプロの世界の鉄則だ。ただ、巨人が伝統として選手に求め、私も求めているのは、ある局面に至ったときにはそういう数字だとか、結果だとかに関係なくチームのために動けるということなんだ。高い技術、高い個の力がときに自己犠牲をもって戦える。そのことが大事なんだ」
そして最後にこう宣言したという。
「交流戦では必要な場面があれば全員に送りバントのサインを出す。みんなその覚悟で打席に入ってくれ」