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「正直、コートに立ち続けたい気持ちはある」さらば錦織圭…“73.1%”に秘められた唯一無二の「没頭力」と素朴な「負けず嫌い」が見せてくれた夢

posted2026/05/22 11:05

 
「正直、コートに立ち続けたい気持ちはある」さらば錦織圭…“73.1%”に秘められた唯一無二の「没頭力」と素朴な「負けず嫌い」が見せてくれた夢<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

今季限りでの現役引退を表明した錦織圭。日本テニス史上かつてない時代をつくった彼の最大の魅力とは何だったのだろうか

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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Yuki Suenaga

 最終セットにもつれた試合の勝率73.1%。これは、引退を表明した錦織圭が打ち立てた記録の中で、最も誇らしく、また、錦織という選手を象徴するものではないか。キャリア終盤に少し数字を下げたが、全盛期には歴代1位をマーク、ビヨン・ボルグ(スウェーデン)、ジョン・マッケンロー(米国)など伝説の名選手をしのいだ。

 もちろん、最終セットにもつれる前に勝てればそれに越したことはない。2014年全米オープンで準優勝、四大大会優勝が視野に入ってからは、下位選手との競り合いを減らし、大会の山場となる「第2週」に体力を温存することが課題とされた。ただ、男子ツアーで層の厚さが年々増していったあの時代に、「一発」の武器を持たない錦織に快勝、圧勝の連続を求めるのは詮ないこと、と今では思う。

 14年からの6年間に22回出場した四大大会で、4回戦(以上)に17回進出している。これほど安定した成績を残せたのは、取りこぼしをせず、接戦を必ずものにしたからだ。キャリア後半は故障がちで、苦しい試合も増えたが、それでも最終セット勝率は70%を割らなかった。

なぜファイナルセットに強かったのか

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 24年の全仏オープンにはプロテクトランキング(公傷制度)で出場、予選勝者ガブリエル・ディアロ(カナダ=166位)との5セット、4時間22分の大熱戦を制し、四大大会では21年全米以来約3年ぶりの勝利をあげた。2セット連取から追い上げを許し、最終セット7−5の薄氷の勝利だった。試合終盤の攻防を錦織が振り返った。

「序盤で効いていたショットが効かなくなった。(相手が)ミスしてくれなくなったので、自分でポイントを取るしかない。リスクがあっても攻めるしかなかった」

 リスクを取って攻めるには、まず、自身の内にある恐怖心に勝たなくてはならない。これはテニス選手にとって最も手ごわい「敵」だ。錦織には、なぜそれができたのか。

 キーワードの一つが「集中力」だ。日の出の勢いだった14年前後、錦織の勝負強さをそのままメンタルの強さと捉える向きが大半だったが、裏方として支えた父・清志さんはその見方に同意しなかった。14年全米のあとに行なったインタビューで、清志さんはこう話した。

「(どの選手も)ずっと鉄の心臓でいられるわけがない。メンタルが強いとか弱いとか簡単に分けてしまうけれど、そんな区分けなんて、できないですよ」

 その前提で、「没頭」できることが錦織の勝負強さの源と分析した。

【次ページ】 体より脳を使う「駆け引き」

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