松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹がスーパーショット後に。
少年少女に渡したサインボール。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2018/08/27 17:30
松山英樹は子供へのファンサービスがとても優しい選手である。2人は決してこの日のことを忘れないだろう。
スーパーショットにギャラリーの感嘆の声。
「永遠に残る」と言えば、思い出されるのは3日目の松山が残したものだ。
あの日、松山はパー3の15番でピン20センチに付けるスーパーショットを披露し、楽々バーディーパットを沈めて観衆を沸かせた。
18番ではティショットを右の林の中へ打ち込みながら、そこからの2打目は悩むことなく5番アイアンを握り、木々の間の狭い狭い空間を見事に抜いてグリーン手前まで運んだ。ギャラリーは大人も子供も「はー!」「すげー!」と驚嘆の声。だが、松山本人に言わせれば、「あれぐらい空いてれば、何の問題もない」。
ラウンド後の囲み取材で「今日は見せ場も作りましたね」と声をかけたら、松山いわく、見せ場だったかどうかは「どうでしょうね。僕の判断じゃないので」と、ご謙遜。
松山に目を輝かせていた少年たち。
それならば、僭越ながら私の判断で、松山の「一番の見せ場」と思えた場面を披露させてもらおう。
15番でピン20センチに付けて楽々バーディーを奪った直後。同組選手がパットしていた間、グリーン奥で待っていた松山は、ロープの内側からゴルフを観戦する貴重な機会に恵まれてその場に居た少年にサインボールをそっと渡していた。
目の前でボールにサインする松山を、少年は夢見心地の表情で見つめていた。松山は優しい眼差しで少年にサインボールを渡し、さらに進藤大典キャディからもう1つボールを受け取ってサインし、少年の横にいた少女にも渡していた。
あの少年少女の胸の中には、松山のスーパーショットのみならず、彼が自分たちのためにボールにサインをして手渡してくれた出来事が忘れがたい思い出として、永遠に残る。その光景を眺めていた大人たちの脳裏にも、松山の優しい表情と少年少女のうれしそうな笑顔が刻まれ、永遠に残る。
ゴルフの世界、いや、この世の中にそういう財産を残すことは、松山自身が目指す最優先事項ではないかもしれない。だがゴルフを愛し、試合観戦に訪れる人々が望む最優先事項にはなりえる。
少なくとも、今年のノーザントラスト4日間における松山の最大最高の見せ場を尋ねられたら、私は「3日目の15番のスーパーショットではなく、そのあとの微笑ましい光景」と、迷わず答える。