野球善哉BACK NUMBER
根尾昂は他人を思いやるヒーロー。
「吉田輝星投手は素晴らしい投球を」
posted2018/08/22 11:45
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Hideki Sugiyama
皮肉を含んでいない。釘をさす意味でもない。かといって努めてチーム愛を語っているのでもない。
彼の口からいつも出てきたのは、常に他者をおもんばかる言葉だった。
「キャプテンの中川はずっと毎日、春夏連覇の目標のために、チームに厳しいことを言ってくれた。そんな中川にみんながついていって結果につながったと思います」
ADVERTISEMENT
優勝インタビューのお立ち台。大阪桐蔭のキャプテンの中川卓也に続いて悲願達成の喜びを聞かれると、根尾昂はそういって感謝の気持ちを表現した。
周囲からはチームを引っ張る存在と見られるが、チームのキャプテンは中川なのだと口にする。自分を中心に置かない言葉の選び方には、彼の心の大きさを感じずにはいられない。
教師、指導者へもリスペクト。
改めて根尾という男のインタビューを思い返すと、他者へのリスペクトを忘れない姿勢にただただ驚かされる。
たとえば、中学時代にオール5の成績を取るほど勉学優秀だったということにスポットを当て、勉強する秘訣を聞くと、根尾は教師たちへの尊敬の念を口にしたものだった。
「先生方は僕たちが知らないことしか教えないわけですから、それを教えてくださるんだと思って聞いていました。授業が終わったら、今日はこういうことを学んだんだなと、ノートに整理する。オール5を目指していたわけではなく、どの教科でも手を抜かないという意識を常に持っていました」
自分を中心には物事を考えない。
「僕ができないことをやられている方々は本当にすごいなと思います。それは勉強でも、野球でも感じます」という言葉にも、彼が日常から心の矢印を自分ではなく外へと向けているというのが分かる。