ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
世界王者・木村翔の下剋上は続く。
中国で防衛に成功、次は田中恒成。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2018/07/30 11:50
次々とエリートをなぎ倒して自らの地位を作り上げている木村翔。これもまたボクシングの持つ夢である。
悪さもした10代を経て。
その記者会見で木村は「練習をしていても試合が決まるか決まらないかでモチベーションは変わる」と本音を打ち明けながらも「目の前の敵を倒すことが大事。相手が誰であろうと、場所がどこであろうと、勝ちに行く決意は変わらない」と涼しい顔で言ってのけた。
中国はプロボクシングの歴史が浅いこともあり、興行上のトラブル(少なくとも日本側から見れば)は少なくない。
青木ジムの有吉将之会長は試合実現までにさんざん振り回され、かなり疲れた様子だったが、こと木村に関しては「あいつはプレッシャーとか、緊張とか、全然ないですから」とそのたくましさに半ばあきれていたのが印象的だった。
3階級制覇王者の井上尚弥(大橋)を筆頭に、幼少のころからボクシングに親しむトップ選手が増えた中、木村はいわゆる“たたき上げ”のボクサーだ。中学3年でボクシングをはじめ、埼玉県立本庄北高のボクシング部に入部したものの1年で退部。以後は伝え聞く限り、かなりの悪さもした中途半端な10代を送ったという。
筋金入りの“エリートキラー”。
20歳のときに母親が病気で亡くなったこともあり、「もう一度ちゃんとやってみよう」とボクシングを再開。24歳でプロ入りしたものの、デビュー戦でいきなり初回KO負け。東日本新人王戦も準決勝で敗れるというエリートとは程遠い道を歩む。
それでもその後は連勝を重ね、WBOアジアパシフィック王座を獲得して世界ランク入りし、前述したとおり、完全アウェイの上海でゾウを撃破。酒屋でアルバイトをしながら練習に励む姿が中国で繰り返し放送され、木村へのシンパシーから中国での知名度が一気に高まったというエピソードは有名だ。
大みそかに拳を交えた五十嵐もアマチュア時代にアテネ五輪に出場し、プロでWBC王座を獲得した実績を持つ実力者だった。この試合でも木村は五十嵐を圧倒してしまったのだから、木村は筋金入りの“エリートキラー”と言えるだろう。