ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
世界王者・木村翔の下剋上は続く。
中国で防衛に成功、次は田中恒成。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2018/07/30 11:50
次々とエリートをなぎ倒して自らの地位を作り上げている木村翔。これもまたボクシングの持つ夢である。
典型的エリートの田中恒成との指名戦。
いわば“雑草”の王者はスピードやパンチ力が突出しているわけでもなく、身長やリーチに恵まれているわけでもない。グイグイ前に出ながらボディ攻めで徐々に崩していくスタイルはどちらかと言えば地味だ。
一方で、相手の力量や試合の流れを冷静に見極め、ここぞというときに攻める勇気と度胸には目を見張るものがある。いまやゾウを下した試合をフロックだと思う専門家はいないのではないだろうか。
そんな雑草王者は、次戦で指名挑戦者の田中恒成(畑中)と対戦することが義務づけられている。田中はアマチュア時代から注目され、持ち前の気の強さとスピードを武器に、プロに入り5戦目でWBO世界ミニマム級王者となり、世界タイトル奪取の日本最速記録を更新。さらに無敗のまま2階級制覇を達成している典型的なエリートボクサーである。
この試合はまだ確定ではないが、現時点で9月に田中の地元、名古屋で試合が行われる方向で話が進んでいるという。木村にしてみればアウェイであり、しかも試合間隔が2カ月しかないという、またしても厳しい条件の試合だ。本人は笑いながら「勘弁してください」と言いそうだが、雑草王者が引き立つ最高の構図であるのは間違いない。
ベルトを持って山手線に乗って。
個性派チャンピオンは今年に入り、アルバイトをしなくても生活できるようになり、家賃5万円のアパートから15万円の高層マンションに引っ越した。いい服をあつらえてもらったり、おいしいものをごちそうしてもらえるようにもなった。
だからといってこの程度で満足するほど木村はお人よしではない。記者会見の帰り道、チャンピオンベルトを入れたケースを手に提げ、山手線に乗って車窓を見つめる木村の表情はどこまでもハングリーに見えた。次戦が待ち遠しい。