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甲子園13本塁打の金属バットと
再会した清原和博の「告白」。
posted2018/07/26 18:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Takuya Sugiyama
5月31日、曇天から小雨が落ちる中を清原和博氏は待っていた。この世にただ1本、自分のものとして存在しているバットが帰ってくるのを待っていた。
「野球人生の中でたくさんのバットを使いましたが、2000本安打の時のものも、500本塁打の時のものも、全部、お世話になった人への感謝としてあげてしまったんです。でも、あのバットだけは手放しませんでした」
神奈川県横浜市にある静かな古民家で、縁側に腰掛けて、そんな思い出を語った。
どれくらい経っただろうか。
大阪から駆けつけた甲子園歴史館のスタッフを乗せたタクシーが到着した。手には黒いケースが抱えられている。開けると、そこには1本の金属バットが入っていた。
清原氏が手に取る。グリップを握る。銀色に光るそれを見つめる。
その瞬間、何かがみなぎったように見えた。
金属バットを手にした瞬間、身ぶるいが。
今の清原氏はかつてのスーパースターではない。執行猶予中の身であり、薬物依存症と重い鬱病と戦っている患者でもある。何があっても感情の起伏はほとんどなく、表情も動かない。
「ずーっと気持ちが沈んだ状態で、気づけば、死にたくなるんです」
だから、いつも目が澱んでいる。
ただ、あの金属バットを手にした瞬間だけは、そんな清原氏にギラついたものがよぎったのは確かだ。
清原氏はバットを手に、じっと見つめながら、ほとんど言葉は発しなかったが、その日、別れた後、こんなメッセージが届いた。
《バットを握ったとき身ぶるいしました。
自分が犯罪を犯して、記念館からこのバットが撤去されたとき、心が痛んで、苦しかったんです。
バットは身体の一部なんです》