ロシアW杯PRESSBACK NUMBER
ネイマールの演技はもう通用しない。
VAR制度はサッカーそのものを救う。
posted2018/07/19 11:30
text by
手嶋真彦Masahiko Tejima
photograph by
Getty Images
モニターに映し出されているのは、コーナーキックをクリアするイバン・ペリシッチのプレーだ。スロー再生が何度も何度も繰り返され、クロアチア代表ウイングの左手にボールが触れているのは確認できた。問題は故意のハンドか、不可抗力だったか――。故意のハンドと見なされれば、フランスにPKが与えられる。
ピッチサイドに設置されたモニターにネストル・ピタナ主審が釘付けとなってから、40秒以上が経過した。慎重の上に慎重を期そうとしているのは、やはりこの試合がワールドカップの決勝だからだろう。フランスが先制し、クロアチアが追いつき、スコアは1-1で36分を迎えようとしている。
判定の難しいプレーだった。故意のハンドにも、偶発的に触れただけにも見える。ピタナ主審の迷いが表れていたのは、映像のチェックにかけた時間の長さだけではない。いったんピッチに戻ろうとして思い直し、改めてモニターのスロー再生を確認する念の入れようだったのだ。
最終的な判定は生身の人間、主審が下す。
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このシーンが象徴的に示している通り、今回のロシア大会からW杯に導入されたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)制度は、重大な誤審を減らすために映像を利用するシステムであって、最終的な判定は主審が――つまり、生身の人間が――下す。
人は間違える生き物だ。我が身に照らせば、誰も否定できないだろう。間違いを減らすためにスロー再生を活用し、複数のアングルから問題のプレーを検証する。
今回のW杯ではモスクワに専用のビデオ・オペレーション・ルームを設置し、毎試合4名のVARチームで任務を分担した。ビデオ・アシスタント・レフェリー(1名)は、ピッチ上のインシデント(出来事。事件)をチェックし、重大な誤審がなかったか、スロー再生等で確認する。ピッチ上の主審とは無線でコミュニケーションを取る。
アシスタント3名は、1人がビデオ・アシスタント・レフェリーのインシデント確認中に発生しうる別のインシデントに備え、もう1人はオフサイドのチェックに専念し、もう1人はインシデント評価中のビデオ・アシスタント・レフェリーをアシストする。VARチームはTV放送用カメラ33台の映像にアクセスでき、うち8台はスーパースローでインシデントを見直せる。