JリーグPRESSBACK NUMBER
平日は会社員、週末になると審判員。
元甲府DF御厨貴文が“プロ”に再挑戦。
text by
渡辺功Isao Watanabe
photograph byIsao Watanabe
posted2018/07/04 16:30
試合をさばかれるJリーガーから、さばく審判に。御厨貴文のサッカー人生は今も続く。
ルールブックを熟読する選手は少ない?
「ルールブックを最初から最後まで熟読したことのあるJリーガーって、ほとんどいないんじゃないでしょうか。たしかに、それでもプレーはできますけど、ルールはちゃんと知っておいたほうが絶対に有利です。たとえばPKのキッカーは、ほかの競技者がボールに触れる前に、再びボールをプレーしてはならない、というルールがあります。
これを知らないで、PKで蹴ったボールがクロスバーに当たって跳ね返って来たところを、PKのキッカーが直接再びシュートしたら、たとえゴールに入ろうと、相手に間接FKが与えられます。ですが、跳ね返って来たボールをキッカーがスルーして、味方の別の選手がゴールに蹴り込んだら得点になります。その1点で勝敗が決まるかもしれない。
あるいは現役時代の僕のように、ルールをきちんと知らないあまりに感情的になった挙句に警告になって、それで出場停止になれば、自分のレギュラーポジションや来シーズンの契約を失う可能性だってあります。何より満足に自分の職業についてのルールも知らずに、サッカーという商品をお客様に提供していた。それはすごく恥ずかしい行為だったんだと、いまになって強く思いますね」
選手の感情を理解できてしまう難しさ。
プレイヤー経験が豊富なことは、レフェリングに際してプラスでしかない気もするのだが、それを実感するのは、しばらく先のことになりそうだと言う。
「まだまだ自分には足りないレフェリーの基礎的なスキルがたくさんあります。自分の経験が強みになるかどうかは、そちらを完全に身に付けてみて、初めて分かることだと思います。ですから、ここから先は想像なんですが、1本のパスから得られる情報量は多いかもしれません。というのは選手時代、1本のパスを通すために膨大な数の失敗をして、敵と味方の動きを数限りなくイメージして、タイミングやボールの回転にまでこだわってきました。
そうした蓄積のおかげで、パスに込められた意図をより詳細に理解できれば、攻撃側・守備側の次の動きが予測しやすくなって、レフェリーとしてのポジションの取り方が違ってくるかもしれません。反対に選手の感情を理解できてしまうことが、レフェリングにはマイナスに働くことも考えられます。
ただ、これだとファウルになる、これ以上はイエローになるといった選手の持っている独特の感覚と、ルールブックの文言を理解して下すレフェリーのジャッジとでは、どちらが正しいかではなく、会話になったときに噛み合わないことがあるんですね。ですから、いま僕が意識しているのは、ジャッジはルールブックの文言に沿った形で下して、それを選手に伝えるときには、変換して感覚の部分に落とし込むことなんです。文言は正しいけど噛み合わないより、伝わることのほうが大切だと思うので」