One story of the fieldBACK NUMBER
見過ごせない“土の上の鉄人”。
鳥谷敬の記録に見る本当の凄さ。
posted2018/06/08 08:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kyodo News
昔、ある監督によく問いつめられたものだった。
「おい、今日、一面いくんだろうな」
他者とは大きく異なる、絶対的に揺るぎない自分だけの物差しを持っていた指揮官がそう言ってくるのは、決まって、十数年という歳月を重ねることでしか成し得ない記録がかかったゲームの日だった。
もちろん、新聞の一面を決める権限など持たない現場記者なのだから、答えようもないのだが、曖昧にうなずきながら、その言い分に耳を傾けた。
「1試合だけ何本もホームラン打って、ノーヒットノーランやって、そういう記録にはお前ら騒ぐけど、長いことやった奴しかできない記録にはそうでもないよな。それっておかしくないか? どっちが価値があるんだ? お前らが伝えなきゃ、誰が伝えるんだ?」
こう言われて、毎回、妙に納得していた覚えがある。
だから私は今も、日々、自分のまわりを通り過ぎていく、たくさんの情報の中に、見過ごしてはいけないものはないかと心配になるようなところがある。もし、知らずに通り過ぎてしまえば、あの、ぐうの音もでない理屈がつめこまれた叱責が飛んできそうな気がして……。
見過ごせない1939試合連続出場の歩み。
そして先日、見つけた。スマートフォン、パソコンの画面上に刻々とアップされては消えていく情報の洪水の中に、それはあった。
鳥谷敬、1939試合で連続出場がストップ――。
言わずと知れた猛虎が誇るポーカーフェースの鉄人である。衣笠祥雄に次ぐ歴代2位という記録の大きさからして、ストップしたことを見過ごす人は少ないだろう。ただ、私が「見過ごしてはいけない」と感じたのは止まったことより、それまでの歩みの方である。