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新大関に昇進した栃ノ心。
兄弟子が語る「最高点の口上」秘話。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2018/06/02 09:00
大関昇進の伝達を受け、母国ジョージアの国旗を背に笑顔の栃ノ心。
ふたりの10年ぶりの会話は?
「すっかり日本語が上手になっていてね。初優勝した時に、かつての僕に感謝していると言ってくれたらしく、驚きました。それで僕宛てにいろいろ取材の電話が掛かって来てもいたので、『ご迷惑掛けてすみません』と栃ノ心が言うんです。そうやって気も遣えるし、冗談も言えるようになっていました(笑)。覚えていてくれてうれしいですよ。あの頃の僕は、ただ同じ力士として接していただけなのに――」
大関昇進伝達式前夜、「口上を間違う夢を見たり、5回も6回も目が覚めてしまった」という新大関は、力強い口調で、来し方の思いをその一言一言に込めた。
「謹んでお受け致します。親方の教えを守り、力士の手本となるように稽古に精進します。本日は誠にありがとうございました」
思い起こせば12年前、ただ単語を羅列しただけの数枚の紙を手に、カスピ海を渡った18歳の青年――。晴れの日の、その口上のできばえに、師匠は「最高点だな」と顔をほころばせた。