野球のぼせもんBACK NUMBER
ギタリスト? 栄養士? 行政書士?
“不思議な投手”武田翔太の本当の姿。
posted2018/05/23 08:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
武田翔太という投手は、自分が知る限りプロ野球界で最も不思議な男だ。
「球場を離れれば、僕はスイッチを切り替える。野球選手とは全く別の自分になります。年々やることも増えていくので、自分でもワケが分からなくなる(笑)。“1人何役”って感じですね」
以前、彼の素顔に迫る取材を行った際にこんなことを言っていた。
たとえば自宅でのリラックスタイムの過ごし方の1つがギターの演奏。その写真を見せてもらったが、彼を知らなければミュージシャンだと言われてもおそらく疑わないだろう。ドラムセットも所有しており、音楽好きの友人たちとセッションすることもある。
また、本棚には「栄養学」「人体解剖学」といった難しそうな専門書がずらり。これはまあ、野球とかけ離れてもないが、その横には「統計学」や「行政書士」といったタイトルの書籍も並ぶ。「宅建の勉強をして、資格に挑戦してみようかな」と話していたこともあった。
マルチな才能と、地道な才能の両方を。
やたらと“道”(野球道)なるものを大切にする日本の風潮からすれば、武田は異端児として扱われがちだ。
しかし一方で、武田ほど熱心に走り込む野球選手も他にはそういない。10kmのランニングをほぼ日課にしており、それは先発登板をした日の夜も同じである。
また、昨年は「200kgの重りを担いでスクワットが出来るようになったんです。プロ入りした頃は60kgで精いっぱい。嬉しいですね。当時から体格が大きく変わったわけじゃない。筋肉の質が良くなった。筋肉は大きさじゃない、出力なんです」と誇らしげに話していた。
ああ見えて、地道なところもある。
ほんと掴みどころのない男、そして投手である。
だから今年も、4月まで全く勝てずに苦しんでいたはずなのに、5月に入るといきなり2試合連続シャットアウトという大仕事をやってのけるわけだ。