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全日本柔道で執念の復活優勝。
最重量級・原沢久喜が流した涙。
posted2018/05/05 08:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
試合が終わると、左手で目を覆った。そこには涙があった。
4月29日、日本武道館。全日本柔道選手権を3年ぶりに制した原沢久喜は、あまり表情を変えない普段と違い、高ぶる感情を露わにした。
原沢は2016年に行なわれたリオデジャネイロ五輪100kg超級銀メダリストである。この階級で圧倒的な存在として君臨していたリネール(フランス)を決勝で追いつめていった姿は、明るい将来を予感させた。
だがこの日は、背水の陣の状況にあった。
銀メダルを手にした大舞台のあと、原沢は長期間にわたり、苦しんできた。オリンピックのあと、本格的な練習再開までに時間がかかり、さらに怪我を負ったこともあって、実戦に戻ったのは半年後だった。
立て続けの敗戦とオーバートレーニング。
リオ五輪後、最初の試合となったのは2017年2月のグランプリ・デュッセルドルフだったが、決勝で敗北。続く全日本選抜体重別も優勝はならず、全日本選手権では3回戦で絞め技により失神して敗れた。柔道人生において、試合で意識を失うのは初めてのことだった。
「落ちるところまで落ちました。来年は、必ず強くなって戻ってきたいです」
急坂を転げるような日々は、しかし、終わりが見えなかった。それまでの実績から日本代表に選ばれた昨夏の世界選手権も初戦敗退に終わる。しかも大会のあと、練習中に体調がすぐれないと感じて医者に診てもらうと、オーバートレーニング症候群と診断され、休養を余儀なくされた。
復帰戦となった今年2月のグランドスラム・デュッセルドルフ、4月の全日本選抜体重別でも優勝は果たせなかった。