草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
震災から7年、風化との戦い。
楽天と嶋基宏が背負い続けるもの。
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKyodo News
posted2018/03/16 10:30
2011年の本拠地開幕戦後、黙祷する楽天の選手たち。チームはキャンプ後も仙台に帰れず、選手やスタッフは家族の安否を憂慮した。
福島出身・西巻賢二が覚えていること。
嶋が話すことはチームメートの誰もが感じていることでもある。高須洋介打撃コーチは「イーグルスの存在意義。応援に応えなくてはいけない。選手は『なぜやるか』を考えていってほしい」と言い切った。忘れない。忘れさせない。それは志を引き継ぐということでもある。仙台育英からドラフト6位で入団した西巻賢二は、3月11日の中日戦で初めて先発で起用された。
7年前は福島県会津若松市の小学5年生だった。
「鮮明に覚えています。教室がすごく揺れましたから。復旧に時間がかかって、1カ月は野球をすることもできませんでしたから」
当時はわからなかったことも、今はほんの少しわかった気がする。それは先輩の背中から受け継ぐべきものが見えているからだ。
「これからは見られる側になります。ただプレーすればいいのではなく、笑顔を与えられるように……。そんなプレーをできるようになりたいです」
降りかかった災難は、実は大切な仕事を与えられた瞬間でもあった。
「見せましょう、野球の底力を」
こう言った嶋も、望んで得た立場ではない。「あれで野球人生が変わった」という。それでも「東北に楽天があるという意味」を自らに今も問うている。震災関連死を含めた死者・行方不明者は2万2000人を超え、さらに7万3000人もの人が故郷に帰れずにいる。被災3県の人口減少はなお歯止めがかかっていない。これら現実の数字ひとつひとつが、風化を許してはいけないと教えてくれる。
伝えること。それは楽天球団が背負い続ける使命であり、嶋が語り継ぐ宿命でもある。