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岡野より俊足、自己管理、強運。
平川忠亮は浦和で生き残り続ける。
text by
佐藤亮太Ryota Sato
photograph byGetty Images
posted2018/02/11 09:00
ACLを含む様々な大会で浦和のために戦ってきた平川。心身両面でのタフさは、柏木らも感服しきりだ。
岡野に「自分より足が速いのは平川」と言わしめた。
「ずっと3-5-2の右サイドをやってきたから、やることは変わらない。ただスタートの位置が少し低いだけ」
誰よりも早く戦術を自分のものにした理由について質問をぶつけた際、こともなげにそう話していたのが印象に残っている。サッカーIQの高さは戦術理解力だけでなく、相手との駆け引きや、試合の流れを読む力にもつながる。並みいるライバルに勝ってきた理由がここにもある。
現在、平川は30代後半となってもなお、高い身体能力を維持している。特にスピードに関しては、かつて“野人”こと岡野雅行(現・鳥取GM)に「自分より足が速いのは平川。トップスピードに達するまでが特に速い」と言わしめたほどである。
もちろん、それを維持するのは年齢とともに厳しくなってくる。
平川も人並み以上のケアをしており、ここ数年特に意識しているのが、睡眠の量と質だという。若い頃はずいぶん夜更かししたこともあったそうだが、結婚して子供が生まれると「親子で川の字になって寝ることが一番の幸せ」と口にするようになり、毎晩夜9時半には床に就き、翌日の練習に備える。
サッカーIQの高さ。身体能力の高さ。自己管理。
それらにもうひとつ加えるなら、チャンスをモノにできる運の強さがある。
降格危機の'11年、ルヴァン優勝の'16年でもいい仕事。
2017年の序盤戦の平川は、ベンチ入りもままならない状況だった。しかし7月に潮目が変わる。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が契約解除となり、堀孝史監督が就任したのだ。
堀監督の初陣となったリーグ第20節・大宮アルディージャ戦以降、平川は公式戦11試合連続で帯同メンバーに入った。自信を失いかけたチームの中で堀監督は、「平川を戦力として考えている」と断言していた。
その判断の陰には、2011年に平川が果たした貢献もあっただろう。
このシーズン、浦和は残留争いに巻き込まれてゼリコ・ペトロヴィッチ監督を解任。チームを引き継いだのは堀監督だった。堀監督は出場機会を失っていた平川を起用し、勝ち点を確保して最悪の事態を回避した。
さらに'16年ルヴァンカップ準決勝FC東京との第1戦でも、当時コーチを務めていた堀は平川に頼ったことがある。退席処分になったミハイロ・ペトロヴィッチ監督から指揮を引き継ぐと、70分から平川を投入。その10分後、平川はFW武藤雄樹のゴールをアシストした。この逆転勝利で勢いに乗った浦和は、そのまま優勝へと駆け上がった。
そして2017年シーズンも、リーグ最終節の横浜F・マリノス戦で平川は2年3カ月ぶりにリーグ戦先発フル出場し、健在ぶりをファンの前で見せている。“ベテラン=精神的支柱”というありがちな思考ではない。堀監督がいかに“戦力”として信頼を寄せているかが分かる。